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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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「シャル。ご近所の方々に挨拶をするのは良い事だ。店の宣伝をするのも許す。だが勝手に注文を請け負ってくるのは今後一切禁止だ」

「どうして? 何でダメなの?」


思っていた以上に慌ただしかった開店初日の閉店後、レヴィアスはシャルにご近所のお姉様方からいただいた注文についてきつく注意をしていた。


レヴィアスは基本人間を信用していない。光の精霊であるキラルが癒やしを与える存在なら、闇の精霊であるレヴィアスは安らぎを与える存在だと言われている。

なので本来ならレヴィアスは人間に寄り添う精霊のはずなのだが、長い年月を過ごすレヴィアス自信の経験が彼を頑なにしてしまった部分があるのだろう。


何度も再生を繰り返したキラルとはそういう部分に多少の違いがあると思われた。

また風の精霊であるエルムは自由を象徴する精霊で本人も比較的自由な存在だ。いつだって心も体も自分に忠実で自由だった。


「まずシャルは善意のつもりだったかも知れないが善意が絶対に正しいとは限らない。返って人をダメにする場合もある。だいたいシャルにパンを頼んだ者達はシャルを図々しく利用しただけだ」

「ちょっと待てレヴィアス。その言い方ではシャルにはまだ難しいと思うぞ」


レヴィアス、キラル、エルムの三精霊が契約している少女を忘れ去ってしまった人間に対しとても評価の厳しいレヴィアスにエルムが口を挟むが、黙っていろと言わんばかりにレヴィアスは鋭い睨みを利かす。


「それに元々そいつらが利用していたパン屋は客を取られたと騒ぐぞ。それもシャルを利用したあくどい方法を使ったと言ってな」

「えっ・・・」

「そっか、僕が作ったパンを気に入ってくれたとしても今回のようにシャルが注文を取っていたんじゃ誰も信じないかも知れないんだ」


キラルは自分が作った物を食べて喜んでくれた人が居ると思っていた。だからシャルはみんなのために良い事をしたと普通に受け止めて喜んでいたので、レヴィアスの言い分にはちょっとショックだった。


「そうだ。その上シャルはキラルに元々店に無い商品を作らせたんだ。キラルに知識があって材料もあったからどうにかなったが、次回同じ物が欲しいと言われた時にシャルはどう答えるつもりだ。私達はメニューに無い物は作れないときっぱり断れるが、シャルはちゃんと断れるのか。自分にできない事を簡単に請け負い責任を取れないのは良くない事だと思わないか」

「だからまだシャルには難しすぎるって言ってるんだ。シャルはまだ五歳だぞ」


レヴィアスの言い分のすべてをきちんと理解できているとは思えないエルムが、今にも泣きそうなシャルを見て咄嗟に庇う。


「年齢で許して良い問題ではない。こういう事はその時にしっかり教えないといけないんだ」

「じゃぁそのくらいにしておこうよレヴィアス。また同じ事をしたらその時また教えれば良いと思うよ」

「それを繰り返していたら人間はどこまでもつけあがりシャルが侮られるだけだ。それこそを私は我慢できない」


レヴィアスは無表情だった顔を険しくさせ少々声を荒げた。


「まぁまぁ、気持ちは分かるがシャルを泣かせてもいい理由にはならないと思うぞ」

「そうですよ。それにシャルを利用し侮るような不埒者がいたらレヴィアスが制裁を与えるんでしょう。しっかり分からせてやるとか言って」

「そんでキラルが癒やして改心させるのか? お前達は本当に良いコンビだな」


エルムがレヴィアスとキラルに出会ったのはシャルを預かる少し前だった。だから付き合いで考えたらまだ日が浅い。しかしきっとそうやって二人が過ごしてきただろうと簡単に想像できた。


「それより今はシャルに癒やしが必要だよ。いっぺんに色々言っても覚えきれないと思うし、返って恐怖心だけを植え付けかねないってレヴィアスも知るべきだね」


レヴィアスはキラルの言い分に反論できず顔を顰める。


「シャル。これだけは覚えておけ。自分にできる事だけをしなさい。それで足りないと思うなら自分にできる事を増やせば良い。そしてこの店は店に来た者にだけしか商品は売らない。それでもシャルがパンの注文を請け負いたいのなら自分でパンを焼けるようになってからにするべきだ」

「はい・・・」


シャルは泣きたいのか悔しいのか俯き加減でレヴィアスにか細く返事をする。


「返事はちゃんと相手の目を見てと教えなかったか。納得できないのなら返事は必要ない」


レヴィアスの厳しい口調にシャルは顔を上げレヴィアスの目をしっかりと見詰めた。


「レヴィアスパパごめんなさい。これから僕は自分にできる事だけをします。それにキラルパパもエルムパパも僕を庇ってくれてありがとう」


大きな瞳に涙を滲ませながら一生懸命に話すシャルにレヴィアスだけでなくキラルもエルムも感動していた。


「やっぱり俺の息子だけある。なんて賢いんだ。絶対に五歳児には思えないな」

「うんうん、シャルは本当に賢くて強くて僕の自慢の息子だからね」


キラルはキラキラの癒し笑顔を浮かべシャルに抱きついた。


「当然だ。私達が育てているんだからな」


何気に得意気で満足げなレヴィアスがシャルの頭をクシャクシャに撫でると、シャルは溜まらずに瞳に溜めていた涙を落とすのだった。



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