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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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「ただいま~」


店の脇に回れば玄関もあるし裏には庭に続く勝手口もあるが、シャルは店側から家へと出入りしている。

店がガラス張りで明るくドアベルが涼しげに鳴るのも気に入っているのもあるが、ショーケースの後ろ隅にお洒落な螺旋階段があって二階へ直接に行けるのが便利だった。


勿論螺旋階段下の扉からは一階住居へも行けるしリビングにも二階へ上がる階段はあるのだが、絶対に遠回りになるその経路で二階へ上がるのはちょっと面倒だという思いもあった。


「おかえり。朝早くからどこへ行ってたんだ?」


螺旋階段の上からエルムが顔を覗かせる。


「チョビとレヴィアスパパとお散歩」

「なんだと。何故俺を誘わない! 散歩なら俺の方が絶対に得意だぞ」


散歩に得意不得意があるかは分からないが、エルムがちょっと機嫌を悪くしたのはシャルにも伝わった。


「出かける時に会ったから」

「何ぃ。俺はその時何してた?」

「知らな~い」

「よし、今から俺とも散歩に行こう」


エルムが螺旋階段を勢いよく駆け降りて来てシャルの手を取るので、一瞬シャルはどうしようかと迷う。

チョビは我関せずといった感じで止まり木の定位置に止まり知らん顔。レヴィアスはエルムの反応に口を出すとまた言い争いになるとでも思っているのか表情を崩さず様子見を決め込んでいる。


「エルムパパ、僕も行きたいけど今日から教会へ行かなくちゃならないからあまり時間が無いよ」

「そうだよエルム。そんなに出かけたいなら後で僕と市場へ買い出しに付き合ってよ。買い足したい物があるんだ」


キラルが調理場へと続くスイングドアを押しのけシャルを助けに出てきた。

シャルはキラルがもうパン作りを始めているのだと知り、開店の準備って大変なのだとちょっと驚いた。


「それに今日の朝食当番はお前じゃなかったか」

「そ、そうだった。朝食は大事だ。仕方ないシャル今日は諦めるが明日は絶対に散歩は俺とだからな。絶対だぞ」

「明日だね。分かった」


こうしてシャルの明朝の予定が決められた。なので多分森での生活の時のように散歩という名の訓練が始まるのだろうとシャルはなんとなく予感していた。

そしてレヴィアスが教えてくれた秘密の場所へ次に行けるのはいつになるのかとも思っていた。


けしてエルムと出かけるのが嫌な訳では無いが、あの場所にエルムと行くのはなんとなく違うだろうという気がしていた。

次にまた行くとしたらチョビとだけで行くかレヴィアスがまた一緒の時だとどこかで決めていたからだ。


「そうと決まれば朝食の準備だな。シャル今日は何が食べたい? 今日は俺が当番だ。シャルの食べたい物を何でも言うと良いぞ」

「エルム、分かってると思うけどちゃんと野菜も取り入れてよ。肉ばっかりじゃダメだからね」

「シャルは育ち盛りなんだ。肉を食わないでどうやって育つというんだ。だいたいお前の作る料理はいつも肉が少なすぎる。そんなんじゃなぁ」

「ハイハイ、僕は十分食べさせてるつもりだよ。それに成長には食のバランスはとても大事なんだよ」


キラルとエルムが言い合いを始めたのを横目にレヴィアスは奥へと姿を消すので、シャルも後を追うように住居へと続く扉を開く。

玄関へと続く廊下に出ていくつかある扉の一つを開きダイニングへと入ると、思った通りレヴィアスがコーヒーを淹れ始めていた。家族の中でコーヒーを好んで飲むのはレヴィアスだけだった。

こだわりがあるのかコーヒーだけはいつも自分で淹れているその姿にシャルはどことなく憧れを感じていた。


「ねえレヴィアスパパ。いつか僕にもコーヒーの淹れ方を教えてくれる?」

「ああ、コーヒーが飲めるようになったらな」


シャルは以前どうしてもレヴィアスと同じ物が飲みたいと駄々をこねた事がある。

その時キラルが甘くした方が良いと工夫してくれようとしたのを断り強がった結果は記憶に新しい。

あんなに苦くて美味しくない物を何故飲みたがるのかいまだに気は知れないが、シャルの憧れは止められなかった。


「僕頑張る!」

「これは好みの問題だ、無理する事は無い。シャルはもっと他にも色んな事に目を向けるのを心がけるといいだろう」

「他にもって?」

「シャルが気づきさえすればこの世界は興味深い事に溢れているぞ。シャルが何に興味を持つのか私も楽しみだ」


シャルはレヴィアスが何を言いたいのか良く分からなくてもっと聞きたい思いに駆られるが、シャルの頭をクシャクシャと撫でるレヴィアスの大きな手に誤魔化され気分を良くし忘れてしまう。


「そろそろエルムを呼んでくるといい。あいつらも気が済んだだろう」

「はーい」


シャルは店に戻ると「エルムパパお腹が空いた-」と言って二人の言い合いの仲裁に入る。

シャルにとってもキラルとエルムの言い合いは既に馴れた日常になっていて、どうしたら止められるかもしっかりと習得済みだ。

そして仲が良すぎるのも大変だなぁと人事のように思っていた。



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