ラモンはルシアを追いかける。
ラモンが雑然とした部屋に踏み入った途端、ルシアが、だっ、と駆け出して部屋を飛び出した。
あんな温室育ちの人間のどこにこれほどの力があったのだろう——いや、運動能力は元々高いのだったか。
突然の出来事に呆然としていると、ルシアが走って行った廊下の奥から、病院の玄関扉が開く音がした。
急いで玄関に向かう。
角を曲がって待合室に出ると、丁度扉が閉まるところで、その隙間から、ルシアの姿が見えた。
閉じそうなドアノブに必死で駆け寄り、捻る。
店々の間を縫うルシアは、来た道を戻っているようだった。だが、所々道順が間違っていて、このままでは迷うのも時間の問題だろうと思える。
というか、元護衛のラモンを撒けない事はルシアだって分かっているはずだ。なにをそんなに急いで——。
前を見ると、体力が尽きたのだろう、段々と速度を落とし、やがて膝に手をついて立ち止まるルシアの姿が見えた。
ラモンも離れない程度に動かしていた足を緩め、ルシアに近づく。
「おいどうしたんだよ、急に走り出して。」
言いながら、これ以上逃げられないようにと彼女の背中に、掴みはせずとも、手を置く。
手に伝わってくる呼吸が不安定なのが少し気に掛かった。
「大体人が会計してる時に勝手にどっか行くなよ。——ていうか!他所の病院の部屋、勝手に開けんな!」
ルシアは答えない。
代わりに、喘ぐような荒い呼吸が聞こえてきた。
脳裏に、倒れたルシアの姿が過ぎる。
俯くルシアの顔を覗き込むと、
「おい、どうしたんだよ!」
思わず息を呑んだ。
ルシアの目から、涙が出ていた。




