聖女は城を出た。
「聖女様。」
ラモンに声をかけられ顔を上げる。
いつの間にか玄関まで来ていたようだ。
横付けされている馬車に乗ろうとすると、それよりも先にラモンが乗り込んだ。
ルシアは面食らった顔で言う。
「ラモン?別に見送りだけでいいのよ?プロラタウノはどうやら辺境の地らしいし、帰ってくるのも大変でしょ?」
ラモンも面食らった顔で言う。
「?いや、俺もう城に帰って来ませんよ?クビなんで。」
ルシアはその面食らった顔にさらに豆鉄砲まで食らった様な顔をして言った。
「え、なんで!!???なんでラモンまで?…私が追放されるから?それで着いていけって陛下が?」
だとしたらルシアの五年分の王への信頼は一瞬で塵と化してしまう。
けれど、現実はもっと残酷だった。
ラモンはあっけからんと言う。
「いや、殿下も言ってたじゃないですか。俺は主の行動も管理できないような従者だって。だから、クビです。使えない従者なので。」
日差しも風の音も酷く遠くに感じた。視界がモノクロになった気がして、やっと目を見開いていることに気がついた。目が、チカチカする。
「…私の、せい…?」
そんなルシアの様子に気付いてか気付かずかラモンは飄々と言う。
「まあ、はい。そうっすね。でもどっちにしろ聖女様が城出たら俺も辞めるつもりだったんで。」
「…そう。」
ぎこちなく頷いて、ルシアは馬車に乗り込んだ。
戸が閉まるのを見て馬車が動きだす。今ばかりは己の従者の顔が見れなかった。
クソ野郎だと思っていた従者にも思っていたより肩入れしていた様で、ルシアは自分でも驚くほど呆然としていた。
それに、ルシアは気付いてしまった。ラモンが元々辞めるつもりだったと言った時、確かに自分がほっとしたことに。自分が関わっても関わらなくても結果は変わらなかったのだと安心したことに。ルシアは呆然としていた。
今までもそうだったのだろうか。ルシアの不出来によってこんな風に誰かが職を失って?
その上、聖女に不名誉を与えて解雇されたなど、その後の雇い手も少ないだろう。いくらダメな聖女でも、聖女は聖女なのだ。
何となく分かってはいたのだ。聖女の権限というのはルシアが思っているよりも強い事も、ルシアのせいで誰かが不幸になっている事も。
ルシアは今後誰をも不幸にせず、生きることができるだろうか。
ルシアは沈思しながら目を瞑った。