ルシアは昔の事を思い出す。
「私が城で体調崩した時さ、ラモン、よくパン粥作ってくれてたでしょ。」
前を向くと、ランタンの光に目を向けていた彼が、ゆっくりとこちらを向いた。瞼が大きく開いて、オレンジ色の瞳がよく見える。
「気づいてたのか。」
私が体調を崩すと身辺の警備が厳重になった。ラモンはそういった時、休みを出されるようで、城内をプラプラしているのを祈祷室と自室の行き来の間によく見ていた。
とはいえ彼のことなので、それは自身にできる仕事がないか探す為だったのだろう。城の食事の調理もその一環に違いない。
そんな訳で、ラモンの所望なのか料理長の図りなのか、ルシアの前に出てくる療養食、特段パン粥はほとんどがラモンによって作られた物だった。
食材が同じでも、作り手が違えばやはり完成度は変わってくる。まして、王城勤めの一流シェフと十五そこらの護衛だ。
だけれど、ルシアはそのパン粥が好きだった。
最高級の食事は確かに絶品だった。ほとんどの人はきっと一生食べられないだろう。
けれど、ルシアはラモンが作った料理が好きだった。気張ったところのない、柔らかいような部分が好きだった。
本当に今日は何かと昔の事を思い出す。
「ありがとうね。あれ、結構美味しかったから。」
「それと、私と一緒に来てくれたことも。」ルシアの予想が正しければ、ラモンは自分から城に暇を申し出たのではないだろうか。
ラモンは、『主の行動も管理できない従者だったからクビになった。』と言っていた。
確かに、仕えるべき主人がいなくなれば一時は解雇されるだろう。けれど、彼は王にも城の者にも気に入られていたし剣技だって本職顔負けだ。
侍従としてでなくとも護衛として再雇用するという道もあるはずで、実際そう提案されたはずだ。
けれど、ラモンはルシアと一緒に来る道を選んだ。
それにルシアが気付いた時、どれだけ嬉しかったか、ラモンにはきっと分からないのだろう。
顔を上げてラモンを見る。
随分と煌めいている瞳は、どうしたって揺れていて、ラモンはふいと顔を背けた。
それがまた、ルシアにはどうしようもなく嬉しかった。




