ルシアは叫び声を上げる。
そんな彼の目を覗き込みながら言う。
「……えっと。ラモン、おはよう?さっきからどうしたの、そんなに焦って。」
「いや別に。」
(『いや別に。』か……。)あれだけ切羽詰まった登場の仕方をしておいてそれはないだろう、と思う。それを裏付けるかのように彼はルシアと目を合わせずにいた。五年の間従者として過ごしていたラモンにしては、らしくない態度である。
(そっかぁ、ずっと、いたんだ。部屋の側に……私が寝てる側に……。)
ルシアは想像する。戸を隔て、自身が皺の寄ったシーツの上で涎をみよーん、と垂らしながら熟睡している側で、冷えた廊下で元主人が起きるのを待つ従者を。——いや、起きた時には涎は垂れていなかったので大丈夫だとは思うけれど。
ルシアはぎくしゃくと頷いて続きを促した。「そっか。」
「ずっと廊下にいて、寒く、なかった?」
ラモンは少し目を伏せて答える。
「昨日寝るまでは看病でここにいたし、夜寝る時も応接室で寝たから。廊下にいたのは、今日、昼過ぎてからだ。」
(——うん?昨日?)
ラモンの言葉に違和感を覚えた。
ルシアの記憶が正しければ昨日ルシア達はホテルにいたはずだ。
そう考えて思案し、ルシアはある仮説に辿り着いた。
(あれ?もしかして?)
「え?——ねえ、私どのくらい寝てた?」
ラモンは少し逡巡してから合点がいったように答えた。
「ああ、そうか。ルシアお前、二日間寝てたんだぞ。」
「二日!!!??」
思わず叫んで、喉を痛める。咳がある程度止まったところで言った。
「え、二日?二日間も、こんな知らない人の家で、爆睡してたわけ、私?」
ラモンがルシアの勢いに気圧されながら頷く。
ルシアは自身のことを繊細な方だと認識していたのだが、どうやら思っていたよりも図太い人間であったらしい。




