イルゼはアルバムを捲る。
振り返るとイルゼが何冊かの冊子を持って台所に帰って来ていて、それらを部屋の中央にあるテーブルに手早く置いた。
冊子はどれも布や革で張られていて題名の部分にだけ控えめに金押しがされている。
なんと書いてあるのだろうと目を凝らしていると、気付けばイルゼはラモンの側で手元を覗き込んでいた。
彼女は頷きながら言う。
「ええ、いい感じね。——食事の支度も終わったし少し休憩しましょうか。ラモンさんも看病続きで疲れているでしょうし。」
——疲れているも何も先程まで寝ていたけど——、なんて思っているとイルゼがテーブルの上に置いた本をいそいそと開いていた。よく見るとそれらの中にはどれも写真が貼ってあった。どうやらアルバムだったようだ。
辞退しようか、でも看病を続けるのもなぁ、などと休憩を躊躇っているとイルゼに手招きされ隣を勧められてしまう。
タイミングを逃し、諦めて隣に行くとイルゼがアルバムをぱらぱらと捲りだした。何かを探しているようだ。
「いやあ、ルシアさんを見てたらなんだか、娘の事を思い出しちゃってね。——ああ、あった。」
そう言って一つの冊子を開くとラモンを振り返って言った。
「これは、——もう十年前になるかしら。まだ娘が家にいた時の写真よ。成人の記念に撮ったの。」
娘。寝室の写真立てに写っていた少女だろう。
話を受けてラモンは、今まで万一を思って聞けなかったことを聞いた。
「——あの、娘さんは今は何処に。」
イルゼは困ったように笑った。
そこでラモンの懸念が当たったのだと理解する。
「さあ、分からない。この写真を撮った後に行方不明になってしまって。」
何か言おうとして、口を開いたまま固まってしまう。掛けるべき言葉が分からなかった。
そんなラモンの様子を見てイルゼは気まずさを和らげるように微笑んだ。
「もういいのよ。随分と昔の事になってしまったし、整理もついてるわ。——今でもたまに、もっと大事にすれば良かったって、後悔もしないでもないけどね。私は、あの子を、夫との事でよく振り回しちゃってたから。」
イルゼは小さくそう呟いた。
「私が言いたいのはね、ラモンさん。」
イルゼは少し躊躇ってから言った。
「ずうっと、ルシアさんについていなくちゃいけないって訳じゃないのよ。」
そう言ってイルゼは微笑む。
「ルシアさんが心配な気持ちは、とっても良く分かるけれどね。それであなたが辛くなったら元も子もないから。——大丈夫、ルシアさんは必ず目を覚ますから。もう少し、辛抱していて。」
そう言ってイルゼは微笑んだ。
少し泣きそうに見えたのは、ラモンの思い込みだろうか。そのくらい、彼女の言葉がラモンの胸に染み込んでいた。




