ラモンは台所に向かう。
次の日、ラモンは客間のソファで目を覚ました。——この客間はここに来た当日、一応、とイルゼに借りていた部屋だった。
ここ最近の看病の疲労が祟ったのだろうか。カーテンを捲ると陽はもう大分高くなっていた。澄んだ空気に注ぐ光が眼の奥を刺す。この季節の昼にしては暖かく、周りに点在する民家には洗濯物を干す主婦が目に付いた。
ラモンは伸びをしてソファを出る。そのまま水を取りに台所へ向かった。
フローリングの硬質な足音を立てながら廊下を歩く。
この家の廊下には窓がないようで、日中でも少し薄暗く感じられた。
『ない”ようで”』というのは、この家が一人暮らし——イルゼには娘がいたようなので元々は二人暮らしなのだろうがそれを取っても——にしては少々大きく造られているからだ。ルシアの側にずっといたのもあり、まだ家中全てを回れていない。
かろうじて場所を知っている台所に着くと中ではイルゼが料理をしていた。
台所の窓は開け放たれていて煉瓦造りの壁に秋風が吹き込んでいた。
イルゼが扉が開いた音に振り返る。
「あら、おはよう。ルシアさんはどう?」
「おはようございます、イルゼさん。良くも悪くも、特に変わりないです。」
苦笑している風に笑顔をつくる。
上手く笑えている自信が無かった。
そんなラモンの表情を見てイルゼは目を見開くと、一瞬顔を伏せてから、いつも通りの笑顔になって言った。
「今お昼ご飯を作っているのだけど、ちょっと手伝ってもらえないかしら。」
意表を突かれて、一瞬返答が遅れる。
はっとして頷いた。
「じゃあ、そこのスープを混ぜておいてね。」
そう言い残してイルゼは台所を出ていった。
鍋を覗くと、中ではトマトスープが煮えていて、その上に溶け込む前のクリームが浮いていた。
壁に備え付けられている箆を手に取って、スープを円を描くように混ぜていく。箆の軌道に合わせてクリームが渦模様を作る。
ぼうっとその動きを見ていると背を向けた扉の奥から足音がした。




