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ラモンは狼狽する。

 少し遅れて、自分の視界が誰かの手で塞がれていると気付く。半ば反射的にそれを剥ごうとした——が、その瞬間、別の手が口を塞いだ。

 その手に何か粉が握られている事に、焦るラモンは気付けない。

 普段なら部屋への侵入を許すまで敵の存在を感知できないなど、あるはずがなかった。


 ラモンはそれを引き離そうとして、何かがおかしい事に、やっと気付く。


 剥ごうとした腕が、鉛のように重い。まるで自分の身体じゃないようだった。


 それならば口で手を噛んでしまおうと思い、顎を動かそうとするが、それもだめだった。


 そうこうしている間にラモンの意識は段々と遠のいていく。


 視界の端が黒く染まり、音が遠ざかっていく。最後に残ったのは、顔を塞ぐ手の感触、遠くから聞こえるガラスの割れる音と、怒鳴り声だった。


 ラモンが目を覚ました時、暗かったはずの窓の外には朝日が昇っていた。


 床を背にし身体中が軋む中、昨日の出来事をぼやける思考で思い起こす。

 「ルシアは——」と考えたところで、ラモンは勢いよく起き上がり部屋の外へ飛び出した。


 ルシアは、大丈夫だろうか。昨日ラモンが襲われたという事は犯人の狙いはルシアと見ていいだろう。


 ルシアの護衛兼従者である——あったラモンを先に襲い、妨害される事なくルシアを襲えるという算段だろう。


 部屋を出ると、狼狽えた人々が廊下を行き来していた。


 そこでラモンは、昨夜気を失う前に聞いた、ガラスの割れる音を思い出す。


 ラモンの部屋でその音が鳴った訳でもないのに鮮明に聞こえていたのだ。他の客も気付いたことだろう。


 足音が廊下に響く。息が上がるのも構わず階段を飛ばし降り、ルシアの部屋の扉を乱暴に開けた。

 そこに、彼女の姿はなかった。


 背中に汗が伝う。


 もしかしたら、動揺して宿の人間に助けを求めているのかもしれない。

 そう考え、受付のあるロビーに行き、係の者に尋ねるが昨夜から姿すら見ていないと言う。


 そこでラモンはやっと、ルシアが攫われたことを飲み込んだ。

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