ルシアは狙われる。
ルシアは浴室を出ると寝間着を着て、そのまま眠りについた。その夜の事だった。
——パリン。
——パリン。パリン。
——パリン。パリン。パリン。
立て続けにガラスの割れるような音がする。
——パリン。パリン。パリン。パリン。
その音が続いて少しして、今度は怒号やら足音やらで部屋の外が騒々しくなった。
ルシアも部屋を出てそれに加わりたかった。が、できなかった。
その音は、まるでルシアを狙うように続いた。
ルシアは懸命に布団に包まり頭を隠した。
——パリン。パリン。
——パリン。
少しして。ルシアのすぐ近くで音が止まった。
何かが落ちる音がする。
窓の破片だろうとルシアは思った。
今度はルシアの部屋に足音が響いた。
ルシアは息を殺して動きを止める。
そういえば、とルシアは思った。
そういえば、ラモンはどうしたのだろう。
城にいた頃も何度かこういうことはあったが、そういう時はいつもラモンが一番にルシアの所に駆けつけ、暴漢を叩きのめしていた。
もう従者じゃないにしても——、とそこまで考えてようやく、彼が今やただの旅の仲間であることを思い出した。
ラモンはもう従者ではないのだからルシアに駆けつける必要もないのだ。
もう、わざわざ危険を冒してルシアを助ける必要はない。
そう気付いてルシアは、ほっとしたような、寂しいような気持ちになった。
そうやって考えごとをしていたせいで、足音がすぐそばで止まっていたことにも気づけなかった。
ばっと布団を捲られルシアの心臓は凍りついた。
顔を向ける間もなくルシアは近づいてきた誰かに腕を掴まれた。
ルシアは力一杯もがいたがその手はびくともしなかった。
「おい、暴れるなよ!」
そう言いながらルシアの手を掴んだ男は割れている窓に向かう。
そこから逃げるつもりなのだろう。
男が窓枠に足をかけた時、ルシアは耐えかねて叫んだ。
「——ラモン!助けて!」
ルシアの声は呆気なく宙に消えた。