聖女は追放された。
ルシアは思案する。
ーーどうして。どうしてこうなってしまったのだろう。
隣から従者の声が聞こえる。
「何故です、殿下!?結婚を控えたこの大事な時期に!」
その通りだとルシアは思った。
私に追放を命じた、第一王子と出会って五年。ゆっくりと愛を育みながら、やっと漕ぎ着けた結婚だった。
王子が答える。
「何故?貴様がそれを問うか。主の行動も管理できない貴様が。」
その通りだとルシアは思った。
いつも陰で笑われていた私だが、彼が私の行動をフォローできていたら、もう少しマシに過ごせたかもしれないと、傲慢にも考えてしまう。
従者が言う。
「ですが、いくらなんでもこんな公の席で!」
その通りだとルシアは思った。
今日は建国記念日だった。そのための盛大なパーティーで、この仕打ちである。
王子が答える。
「だからこそだ。この偽聖女の行動はあまりにも目に余る。もはや追放だけでは事足りん!」
その通りだとルシアは思っーー。
「いやなんなんですか!!さっきからあんた!!!僕にも殿下にも頷いて!!!!」
「へ?…ああ、ごめん。」
どうやら無意識のうちに頷いていたらしかった。
「…で、どうするんですか。この状況。」
呆れ顔の従者にそう言われ、ルシアは今の状況を整理する。
事の発端は二年前に現れた新たな聖女だった。
ルシアは聖女だった。五年前に実家で殴られそうになった際に、聖魔法に目覚めた。
ルシアの実家は名のある貴族だったが、家族仲はあまり良くなく、暴力なんかは日常茶飯事だった。
ルシアが初めて聖魔法を使った時は使用人含め家の全員が泡を食って目をまわしたが、ルシアが聖女であるという事が国に知られると、後は早かった。
そんなこんなでルシアはあれよあれよという間に城に運ばれ、第一王子の婚約者となった。
その間、約一ヶ月。
先ほどとは違う意味で使用人たちは目をまわしただろう。
聖女のするべきことは色々あった。
始めの方は、国の歴史や礼儀作法、そのほか勉学に勤しんでいた。
それほどいい成績は収められなかったが、実家での境遇も手伝ってか、皆優しくルシアに接してくれた。
一通りの教養を学び終えると、満を持して、仕事が始まった。
様子が変わり出したのはそこからだった。
聖女の仕事は主に病院、孤児院の訪問などで、稀に聖魔法を活かした騎士団の治癒もあった。
その仕事全てにおいてコミュニケーションは必須だった。
そして。ルシアはそんな事微塵も思った事ないのだが。周りが言うには。ルシアはコミュニケーションが苦手なようだった。
勉強ができないのはまだ良かったが、実地で役に立たないのなら存在価値はない。
そんなこんなで聖女の評判は散々で、最初は優しくしてくれていた城の人々も、私を見て陰口を叩くようになった。
だか、あまり役に立たなくとも、聖女である以上は仕事をしなければならない。
そう思い、聖女の仕事を続けて三年後。
新たな聖女が現れた。
伝承では、聖女、つまり聖魔法の使える者は一世代に一人だとされているが、そもそも聖魔法そのものがまだまだ解明されていないのだ。今まではそうだっただけという可能性も大いにある。
そのため、新たな聖女の存在は案外すんなりと受け入れられた。
ルシアが役立たずだったのも要因の一つだったのかもしれない。
新しい聖女、アエミリアは有能だった。
賢く、要領もよく、ルシアが一年かけて行った勉強を二ヶ月で終わらせた。
その後は、ルシアと一緒に仕事をするようになった。
そうすると、アエミリアの聖女としての才覚はますます顕著になった。
アエミリアはルシアとは違い、訪問先の人々に笑顔で接し、いつも会話に花を咲かせていた。
アエミリアは国内からの評判もよく、そうなるとますますルシアの存在価値は無くなっていった。
ーーそして今に至る。