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青天の霹靂 3

「というわけでして。」

 放課後の職員室、なんともいえない顧問の顔。

 ごく普通、あらゆることについて平凡の極みを自称している花だけれど、この人もあなどれない。

 絵に描いたような上下ジャージ姿のサッカー部顧問。三十代後半、中肉中背、若い時はきっとオモテになったんでしょうねという爽やか顔だが、いまは無精髭を生やしこめかみにはわずかだが白く光る髪が目立つ。もっと小綺麗にしたらいいのに、わざとなのか少しいつもしおしおだ。そこがいいと思う。人間味があるって素敵。

 自分の状況を棚に上げて今さら顧問の顔を観察するくらいしか、いまの私の心を慰めるものはない。今日何度目かの我が家庭の事情の説明に、心はもはや動かない。ただただ疲労が募るだけ。

「まぁ、仕方がないよなぁ。」

 茶渋がついたマグカップで、濃く入れたインスタントのコーヒーをすすりながら顧問は言う。

 これも何度も聞いた。そう仕方ない。

 一年生の最初、たまたま隣の席で仲良くなった子に誘われて、何をするかもわからないまま花はサッカー部のマネージャーになった。その子はとても可愛らしい容姿の女の子で一人では恥ずかしいから一緒にやろうとはにかむ笑顔で誘われれば、心がほわあっとなってうなずく以外にほかない。花はとてもちょろい。男兄弟の真ん中だから、男にはとてつもない免疫があるが、可愛い女の子にめっぽう弱い。だって可愛い。可愛い子に誘われて断るなんて女が廃る。

 「まぁ、こっちはなんとかなるだろう。今の生活が落ち着くまでとりあえず休部扱いにしとくよ。」

 

 部活に出なくてよくなったのは少しだけホッとした。花を誘った彼女はそれまでどこに行くにもべったりだったのに、二年生になってクラスが別になった途端、態度が一変した。妙によそよそしくなった。少し距離を感じるほどに。急に突き放されたようでどう対応していいかわからない。それにマネージャーは新しく一年生が二人入ったのだ。自分が抜けたところで、特に困ることもない。

 下駄箱で外靴に履き替える。お気に入りのシューズは白地に濃紺色のラインが入っていて、靴紐は水色。四つ上の兄からの入学祝いのシューズ。今日は帰ってくるかな。

 重すぎる気持ちを引きずり帰路に着く。最寄り駅まで徒歩15分、その先電車に10分。降りたらまずは弟を保育園に迎えに行く。可愛い可愛い弟。こんな時でさえ弟のことを考えれば笑顔になれる。

 自分の後ろ、校庭の方からサッカー部のいつもの掛け声が遠くに聞こえた。

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