青天の霹靂 2
「じゃ、大変だったんだ。」
美しく手入れされている豊かな長い黒髪をそっとかきあげ、眉間を少し寄せて伊藤紗奈が静かに微笑む。昨日まで相田花だったから、あいうえお順で前後になることが多い紗奈と仲良くれたことは幸運だった。がさつで大雑把なわたしとは違って、全てをたんたんと受け入れ、なおかつすべきことをこつこつと愛を持って積み上げていくこの友人を花は尊敬している。自分にないけれどそうであってほしかったものを全て持っているように見えて。
お昼前に体育館前の自動販売機で買ってきた紙パックのいちごミルクをストローでズルズルと吸いながら、あいまいにうなづく。
この3日何が起こってるかもわからないまま、過ぎ去った。今こうして友人たちに説明しながら、本当にそれが自分に起こった出来事なのか、現実感がない。だって目の前にあるのはいつもの光景なのに、一歩学校をでたら自分でも未だ理解不能な生活が待っているなんて。
「親の離婚とか不倫とか、よくあるようだけど、実際に目の前でなった人、初めて見た。」
友人の一人に言われ、大きく被りを振る。
わかるよ、わかる。そうだよね!
気を遣ってかさりげなく変わった友人たちの次の話題に耳を傾けながら、天井のよくわからないシミを見つめて大きなため息を吐く。
だって仕方がない。そう。仕方がないじゃない。そうは思いつつも心の中にはずっと霧がかかったようにもやついていた。
この3日の出来事を整理できないまま、登校した。こんなにも学校に行くことが心の救いになったことが今まであっただろうか、いやない。なんだか文芸的になるのも、気を抜いたらうっすら涙が浮かぶのも、全てが嘘くさい。なにが本当でなにが現実でなにが事実なのか。もう全てが面倒くさい。友人たちの生暖かい声かけになんて返事したらいいのかもわからない。気持ちは嬉しいのに顔は仏頂面になる。私だって普通がよかったのに。普通に普通の人生を送りたかったのに。ため息しか出ない。
やんなっちゃうなぁ。
友人たちのやんわりとした優しさが沁みて痛い。痛くて苦しい。他人のほうが優しいなんて。生まれてからずっと一緒だった人たちより、他人のほうが遠い分ちゃんと優しい。この3日で嫌というほど知ったことの一つだった。