第8章:剣と魔法の攻防
◆
ギィンッ!
ロランドの剣が、ラミエルの刃に弾かれる。
「ぐっ……!」
力の差は明らかだった。ラミエルの剣筋は無駄がなく、一撃一撃が鋭く正確だ。防戦に回るロランドは、すでに数箇所に切り傷を負っていた。
「お前の剣では、俺には届かない」
ラミエルは静かに言い放つ。
「ロランド!」
オーブリーは魔法陣を描き、再び炎を放った。
「フレイム・バレット!」
火炎弾がラミエルへと飛ぶ。
「無駄だと言ったはずだ」
ラミエルは軽やかに身をひねり、炎の弾をかわす。
「なら……これならどう!?」
オーブリーはさらに魔法を詠唱し、足元に魔力を込める。
「マグナ・バースト!」
すると、地面が爆発し、砂煙が巻き上がる。
「……視界を遮るか」
ラミエルの視線がわずかに揺らいだ、その瞬間——
「もらった!」
ロランドが砂煙の中から飛び出し、剣を振るった!
「……!」
ラミエルは即座に防御体勢を取るが、ロランドの剣は狙いすましたかのように、 彼の肩をかすめた。
「ほう……」
ラミエルは少し驚いたような表情を浮かべ、剣を構え直す。
「ただの貴族上がりではない、というわけか」
「……俺は、ただの名声目的で旅をしてるわけじゃない」
ロランドは息を整えながら、言い放った。
「たとえ相手がどんなに強かろうと、俺は後には引かない」
「ならば、次は本気でいくとしよう」
ラミエルの目が鋭く光る。
次の瞬間——
彼の剣から 青白い魔力の波動 が放たれた。
「魔法……?」
ロランドとオーブリーは驚愕する。
「俺の剣は、ただの剣ではない」
ラミエルの刃が淡い光を纏う。
「これは、『封印の剣』。魔力を帯びた存在を斬り裂くために作られたものだ」
「……封印の剣?」
オーブリーは驚きの声を上げた。
「ならば、次の一撃で決める」
ラミエルは一歩踏み込み、刃を振り下ろした——!
◆
「ロランド!」
オーブリーの叫びが響いた瞬間、ロランドは咄嗟に剣を構え、ラミエルの斬撃を受け止めた。
ギィィィィンッ!!
魔力を帯びた刃同士がぶつかり合い、青白い火花が散る。
ロランドの腕に、これまでにないほどの衝撃が走った。
「くっ……!」
「これが、封印の力だ」
ラミエルは剣に込められた魔力を解放しようとする。しかし、その時——
「インフェルノ・バースト!!!」
オーブリーが 最大の炎魔法 を発動させた!
「……!」
ラミエルは反射的にロランドとの間合いを取る。
轟音とともに 炎の柱が天を突き、ラミエルを包み込んだ。
「やった……!?」
オーブリーが息を切らしながら叫ぶ。
しかし——
炎の中から、 ゆっくりとラミエルが歩み出てきた。
「……なるほど」
彼の衣服は焦げていたが、ほとんどダメージを受けていない。
「……今のは、なかなかの威力だった」
「な、なんで無傷なのよ!?」
「俺はお前たちの敵ではない」
ラミエルは剣を鞘に戻した。
「この戦いで、お前たちの実力は分かった。今は、引いてやろう」
「……なんだと?」
ロランドは訝しげに睨む。
「俺の目的は、お前たちがこの宝石を集めることで どのような選択をするかを見届けること だ」
ラミエルは静かに言った。
「そして、その選択が世界にとって脅威となるなら……俺はお前たちを討つ」
「……脅威?」
「いずれ分かる」
そう言い残し、ラミエルは踵を返した。
「……待て!」
ロランドが追おうとしたが、ラミエルの姿はすでに砂嵐の中へと消えていた。
◆
沈黙の神殿の前には、ロランドとオーブリーだけが残された。
「……あいつ、一体何者なの?」
オーブリーが息を整えながら呟く。
「少なくとも、敵意だけで動いているわけじゃなさそうだ」
ロランドは剣を収め、拳を握りしめた。
「だが、俺たちの旅が“世界の均衡”と関わっているのなら……それを確かめるしかない」
「……そうね」
二人は再び沈黙の神殿を見上げた。
ピーチサンジェイドは、この奥に眠っている。
ラミエルの言葉が、彼らの心に重くのしかかる中——二人は静かに神殿の中へと足を踏み入れた。
(続)