第6章:黒装束の正体
◆
「……さて、取引成立だ」
オークション会場の喧騒から離れ、ロランドとオーブリーは グスタボ の指定した路地裏の一角で彼を待っていた。
9000ゴールドもの大金をどうやって支払うのか。
ロランドには考えがあった。
オークションでの落札後、彼らはすぐに支払いを求められたが、ロランドは「グスタボの保証がある」と言い切った。そして、そのままオークションの裏取引を行う場所へと案内されたのだ。
「おやおや、ずいぶんと派手なことをやってくれたじゃないか」
軽快な声とともに、 グスタボ が姿を現した。
「お前の言った通り、妙な奴が競りに参加してたな」
ロランドは腕を組みながら言った。
「黒装束の男のことか? まあ、彼の正体については俺も少し気になっていたところさ」
「まずは約束の情報だ。ピーチサンジェイドについて、何を知っている?」
「焦るなって。まずは金の話を片付けようか」
グスタボはにやりと笑い、サンドホライズンクォーツを指差した。
「この鉱石は、実は王都の貴族たちが極秘に取引している“特別な品”でな。お前たちが持ち帰ったら、相当な価値が出るぜ」
「つまり?」
「オークションで9000ゴールドも払わせたのは、お前らが“本気かどうか”を試すためだったってわけさ」
「……お前、最初から俺たちが競り落とすと読んでいたな?」
「当たり前だろ。お前らみたいな“話の分かる奴”が手に入れた方が、この町のためになる」
ロランドは眉をひそめたが、グスタボが考えを読んでいたことに驚きつつも、納得するしかなかった。
「それで、情報は?」
「ピーチサンジェイドは “沈黙の神殿” にある」
「……沈黙の神殿?」
「この町から 北東の砂漠地帯にある廃墟 だよ。古代の神々を祀っていた場所で、封印が施されているって話さ」
「また遺跡探索か……」
オーブリーがため息をつく。
「まあ、簡単に手に入るなら誰も苦労しないさ」
「お前はついてこないのか?」
ロランドの問いに、グスタボは肩をすくめた。
「俺は商人だ。危ない仕事は専門外ってね」
「……だが、沈黙の神殿が宝石を守っているなら、例の黒装束の男も追ってくる可能性が高いな」
「そりゃあな。お前らも気をつけるんだな」
グスタボは意味深な笑みを浮かべながら、ローブを翻して去っていった。
◆
翌朝——ロランドとオーブリーは 沈黙の神殿 へと向かった。
乾いた風が吹き荒れる砂漠の中、突如として現れた 古代遺跡。
巨大な石造りの門には、古い呪文の文字が刻まれ、長い年月の間に風化していた。
「ここが……沈黙の神殿」
オーブリーが呟いた。
しかし、彼らが一歩足を踏み入れようとした瞬間——
「待て」
低い声が響いた。
振り向くと、そこには昨日の 黒装束の男 が立っていた。
「……やはり来たか」
ロランドは剣を抜き、構えた。
「お前は何者だ?」
黒装束の男はゆっくりとフードを外した。
現れたのは、精悍な顔立ちの青年だった。鋭い瞳がロランドを射抜くように見つめている。
「俺の名は ラミエル。貴様らが追う宝石を、俺は阻止しなければならない」
「阻止……だと?」
「貴様らは、己の行為が何を引き起こすのか、まだ知らぬようだな」
ラミエルは剣を抜き、静かに構えた。
「それならば、教えてやる。貴様らに試練を与えよう」
次の瞬間——
ラミエルが 音もなく間合いを詰めた!
「来るぞ!」
ロランドは剣を振り上げ、ラミエルの一撃を受け止めた。
沈黙の神殿の前で、 運命の戦いが始まる——。
(続)