第3章:ゴールドラベンダークォーツの謎
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祭壇の間に響く、不気味な唸り声。
影の魔物たちは黒い霧のように揺らめきながら、ロランドとオーブリーを取り囲んでいた。その数は五体。どの個体も人間より一回り大きく、鋭い爪を光らせている。
ロランドは剣を抜き、冷静に敵の動きを観察した。
「……数は多いが、所詮は遺跡の守護者か。速さはそこまででもなさそうだな」
「でも、油断は禁物よ」
オーブリーは背後に立ち、両手で魔法陣を描く。
「ファイア・スフィア!」
彼女の詠唱と同時に、巨大な火球が放たれ、最も近くにいた魔物へと直撃。
ゴオオッ!
魔物は炎に包まれ、一瞬のうめき声を上げてから消滅した。
「やるじゃないか」
「当然でしょ!」
しかし、残りの魔物たちは素早く動き、ロランドに向かって一斉に飛びかかってきた。
「チッ……!」
ロランドは剣を素早く振るい、一体の魔物を斬り裂く。しかし、もう一体が横から爪を振り下ろし——。
キンッ!
かろうじて剣で受け止めたが、衝撃で後ろへと弾き飛ばされた。
「ロランド!」
オーブリーが叫ぶ。しかし、ロランドはすぐに体勢を立て直し、冷静に言い放つ。
「……お前の魔法、どれくらい強くできる?」
「え? 何よ、急に」
「いいから、今持てる全力で攻撃しろ。俺が隙を作る」
オーブリーは一瞬迷ったが、ロランドの言葉を信じることにした。
「……わかった」
彼女は目を閉じ、深く息を吸う。
そして——
「インフェルノ・バースト!」
巨大な炎の柱が、魔物たちを中心に炸裂した。
ゴオオオオオッ!!!
遺跡の壁を揺るがすほどの熱波が吹き荒れ、魔物たちは悲鳴を上げながら燃え尽きた。
「……すごい威力だな」
ロランドは剣を収め、呆れたように息を吐いた。
「お前、最初からこれを使ってたら楽だったんじゃないのか?」
「ちょ、ちょっと! この魔法は消費が大きいのよ! そう何度も撃てるわけないでしょ!」
「まあ、結果オーライってやつだな」
オーブリーが憤慨するのをよそに、ロランドは祭壇の上の水晶へと歩み寄った。
◆
ロランドが水晶に手を伸ばすと、それは柔らかい光を放ち始めた。
「……これは?」
オーブリーも興味深そうに覗き込む。
次の瞬間——
「我を継ぐ者よ……」
静かな、しかし深みのある声が響いた。
「!」
ロランドとオーブリーは身構えた。しかし、周囲には誰の姿もない。ただ、水晶が淡く輝いているだけだった。
「……幻聴?」
「いや、違う」
ロランドは眉をひそめ、水晶をじっと見つめた。
「これは……記憶の魔法か?」
まるで、水晶に刻まれた言葉が、彼らの心に直接語りかけてくるようだった。
「ゴールドラベンダークォーツは、失われし力の鍵なり。これを求める者は、次なる地へ進むべし。」
「……失われし力?」
「そして、次なる地?」
オーブリーが呟いた。その言葉に呼応するかのように、水晶の光が変化し、遺跡の壁に古代文字が浮かび上がった。
「ここに刻まれし名は……『砂漠の都市・アル=ザハル』……?」
ロランドは小さく呟いた。
「そこに行けば、次の手がかりが見つかるってことね」
「そういうことだな」
ロランドは水晶を慎重に持ち上げると、その光がゆっくりと消えていった。
◆
遺跡を脱出し、夜の王都に戻った二人は、しばしの休息を取っていた。
「……明日は砂漠に向けて出発ね」
オーブリーは月を見上げながら言った。
「旅の始まりってわけだな」
ロランドも空を見上げた。
彼らの旅は、まだ始まったばかり。
次なる目的地は、「砂漠都市アル=ザハル」。
そこでは、新たな仲間と、さらなる試練が待っている——。
(続)