9話 喧嘩勃発
お昼時。私はフレアとハクギンさんと一緒に、リトルナイト専門店内にあるフードコートエリアにやってきた。
3人揃ってハンバーガーショップ『バーガーナイト』に向かい、そこでハンバーガーのセットを注文した。
「ハンバーガーセットでお待ちのお客様ー、お待たせいたしました!」
『商品をお受け取りください!』
「可愛い……!」
男性店員とリトルナイトの店員によって出されたハンバーガーセットには、リトルナイト用のトレーに乗ったハンバーガーセットがちょこんと置かれていた。
空いていた机にセットを置き、テーブルの上にあるリトルナイト用の椅子テーブルにピントを乗せる。
そして、ピントの前に小さなハンバーガーセットが乗った小さなトレーをピントに渡した。
『僕のハンバーガーセットだ!』
リトルナイトサイズのハンバーガーセットにピントは大喜びだ。
「ここのハンバーガーはとても美味しいことで有名です」
ハクギンさんは説明しつつ、リトルナイトにハンバーガーセットのトレーを差し出している。
ハクギンさんのリトルナイトであるハクヤさんは、受け取ったハンバーガーセットのトレーを丁寧にテーブルに置いていた。所作が綺麗だ。
「お昼は大体ここにしてます。シェイクが特に美味しいです」
「へぇ〜! バーガーナイトは美味しいって噂では聞いてましたけど、どこの店舗も遠すぎて行くのを断念してたんですよ」
「念願叶ったようで良かったです。是非ご賞味あれ、です」
ハクギンさんは相変わらず表情は固いが、それでも楽しそうに笑いながら私にハンバーガーを進めてくれた。
「準備できたかな? じゃあ、みんな揃って……」
「いただきます!」「いただきまーす」「いただきます」
揃えようとしたが、ご飯の挨拶は見事にバラバラだった。3人とは初対面なので、揃わないのも無理はないだろう。
「えっ? 2人は今日知り合ったばかり?」
ハンバーガーを食べ終えた後、ポテトやナゲット片手に談笑の時間に入る。
「うん、朝に自然公園で助けられて……」
『空から降ってきて助けてくれた!』
「オームラさんも助けられたのです?」
会話の流れで、ハクギンさんは私達の仲について尋ねてきた。今日知り合ったばかりだと伝えたら、ハクギンさんは目を丸くして驚いていた。
「あまりにも距離が近いから親友だと思ったです」
「あー、距離が近く見えたのは多分だけど私が原因かも。私、昔から距離が近いって言われてたし」
「それは確かにそうです」
フレアの説明にハクギンは深く頷く。
「でもカエは特に嫌がることなく普通に接してくれてさ。だからお互いに距離が近く見えたんだろうね」
「なるほどです」
『カエは優しい魔女だ。フレアのようなガサツで図々しい魔女を素直に受け入れてくれているのだからな』
「こらゴウカ! 流石に言い過ぎだろ! 自分でも分かってるけどもさぁ……!」
感慨深そうに頷くゴウカにフレアが即座に指摘する。
だがフレアも思うところはあるのか、私に顔を向けて1つ質問を口を開いた。
「カエってぶっちゃけ、私のことどう思ってる?」
「えっ? 親切でフレンドリーな人だなって思ったよ。子どもに囲まれて困ってたところを助けてくれた上に友達になってくれたし」
「カエ……」
フレアは私をじっと見つめる。
「カエもカエで呑気というかなんというか……」
「えっ」
「オームラさん、割とマイペース」
「子どもに囲まれて何か言われてた時も、困ってたというよりどうしようか悩んでた感じだったよな」
『肝が据わってたな』
『オームラ様は胆力があるように感じられます』
「えぇ……」
思ったことを言ったら逆に私が責められる側になってしまった。よくお母さんから呑気だと言われてはいるが、まさかここまで言われるとは。
で、なんやかんやで談笑は盛り上がり……
「さて……オームラさんはリトルナイトのバトル、リトルファイトに興味はある?」
「あるよ!」
お互いに距離が縮まり敬語が取れた頃、ハクギンさんはリトルファイトについて話を切り出した。
「そもそも大会を見てリトルナイトに興味を持ったし……」
「では、2階のバトルエリアに行こ。リトルファイトができる大きなバトルフィールドが沢山並んでるので、そこでバトルの練習できる」
「いいね! 行ってみたい!」
「リトルナイト同士で戦ったり、魔物討伐をして稼いだポイントで競ったりと、色々なルールがあるから飽きないと思う」
「魔物倒せるんだ……」
「隣には使い魔レベルのリトルナイトが使う武器もあるから、そこもオススメだな」
「へぇ……!」
1階は使い魔未満のリトルナイトが使用するオモチャレベルの武器が並んでいたが、2階からは本格的な武器が見られるようだ。
「決まりだな。なら早速……」
「あの、すいませんお嬢さん方」
「はい?」
移動のために席を立とうとしたその時、私達と同じくらいの年であろう男子2人が声を掛けてきた。
「ひょっとして、リトルファイトの対戦相手をお探しですか?」
1人は黄色の髪を綺麗に整え、強そうなオオカミ型のリトルナイトを抱えている。
もう1人はセミロングの黒髪を持ち、イタチの獣人のようなリトルナイトが足元で待機している。
どちらのリトルナイトも毛並みフサフサで、さながら本物の生き物のように見えた。
「実は僕らも対戦相手を探していまして……」
「そうなんですか? じゃあフレアとハクギンさんで……」
「いや、僕らとしてはそこのウサギのリトルナイトと特に戦いたくて……」
「このタイプのリトルナイトを見るのも珍しいですし、是非戦ってみたいなと思いまして」
男子2人はどうやらピントをご指名のようだ。
「そんなんですね。ねえピント、ピントはどうしたい? この人達と戦ってみる?」
『えーやだ』
私はピントに勝負するかどうか尋ねてみたが、ピントは珍しく乗り気ではない。よく見るとほんの少し不機嫌そうだ。
「……ピント、どうしたの?」
『カエ、この人達さっき遠くで「あの女子達なら勝てそうだな」って、カエを見ながら言ってたよ』
「えっ?」
「ちょっ!?」
ピントの曝露に、男子2人が慌て出した。
「いや、そんな失礼なことは別に言ってないですって!」
『言ってたよ。特にカエのことは「初心者相手なら勝てる」だとか、「勝って士気を高めてから本格的にバトルしようぜ」だとか……』
「いや、そんな……はは……」
この反応から察するに、どうやらこの2人は私が初心者だと理解した上で勝負に挑んできたようだ。
それにしてもピントの聴力は素晴らしい、遠く離れたところにいた相手の声まで拾うとは。
(とりあえず、ここは丁寧に断ろう……)
ピントは乗り気ではないし、私もこのような相手と勝負をする気は起きない。
「申し訳ございません。残念ですが……」
「おいそこの2人」
断りの言葉を伝えようとしたその時、唐突にフレアが割って入ってきた。
「初心者相手に喧嘩売るとは、随分と落ちぶれた性格してんなぁ……」
「は……?」
フレアは乱暴な言葉遣いで相手2人を威圧している。魔力が頭に巡っているのか、フレアの髪色が明るく染まっている。
「……」
(あ、ハクギンさん魔法使ってる……)
ハクギンさんの体内で魔力が巡るのを感じたかと思うと、周囲に防音魔法が施された。どうやらハクギンさんが防音魔法を使用したようだ。
「見たところそこそこ腕のあるリトルナイトプレイヤーみたいだな。リトルナイトを見れば分かる」
「フレア、少し落ち着いて……」
「だけどなぁ……そうやって初心者狩りするような腐った根性持つような奴がまともに戦えるとは思えねえなぁ」
「は? 何ですか?」
「まさかオレらバカにしてんすか?」
フレアの態度に、男子2人の態度が悪くなる。だが、フレアは構わずに言葉を続ける。
「当然だろうが! リトルナイト始めたての奴を狙って勝負ふっかけやがって!」
フレアが叫び、凄まじい魔力が周囲に漏れ出る。男子2人は多少ビビるも、この場から退散するつもりはないらしい。
(防音魔法あって良かった……!)
もし無かったら今頃、フレアの叫び声がフードコート中に響いていただろう。
「どうせ周りに勝てねぇからって雑魚狩りしてんだろ!? カスみてぇな考え方しやがって!」
「はっ……そんなわけないでしょ?」
「少し何か言われて簡単に怒り狂うお姉さんこそ、頭足りてないんじゃないんすかぁ?」
「んだとぉ!」
「ちょっ!? フレア落ち着いて!」
「ストップ」
私はハクギンさんと一緒にフレアを止める。その様子を見た男子2人は、ため息をついてボソリと一言呟く。
「……はぁ、まさかこんな野蛮な奴がいたとは」
「やめときましょ。あんな雑魚に勝ったって嬉しくもありませんって」
「ふざけた口聞きやがって! じゃあ勝負しようじゃねえか! 俺とカエでお前らをボコボコにしてやる! 覚悟しとけ!」
「へぇ、いいんですか? 初心者と一緒に僕らと戦ってくれると?」
「当然だ!」
「ホントっすかぁ? お姉さん達にそんな根性あるようには見えないんすけど……」
「やるっつったらやるんだよ! その腐った根性叩き直してやる!」
「待って」
「止めるなトール!」
更にヒートアップするフレアをハクギンは冷静に止める。が、フレアの怒りは収まらない。
「うーん……分かった、とりあえず勝負はするよ」
勝負すると言わなければ相手は延々と煽り続けるだろうし、フレアの怒りは収まらなそうだ。
ここは大人しく勝負を引き受けてこの場を収めるしかない。
「でも、オームラさんはまだ初心者。少なくともオームラさんが準備する時間は設けるべきだと思う」
「それもそうですね」
ハクギンの提案に黄髪男子は頷く。
「何もできないまま呆気なく倒れられても味気ないですから」
「テメェ……!」
「フレア落ち着いて!」
「では、2時頃に勝負しましょう。勝負内容は2対2のシンプルなフィールドバトル。僕らはバトルエリアにいますから、準備が出来たらいつでもどうぞ」
「じゃ、そういうことで〜」
「くそっ! アイツら……好き勝手言いやがって……!」
フレアは未だ怒り収まらないまま、立ち去る男子2人を睨みつけている。
「それにしても、大変なことになったなぁ……」
リトルナイト初心者なのに、それなりの相手と戦うことになってしまった。
「……オームラさん、私も全力で手伝う」
「ハクギンさん、ありがとう」
「カエ! アイツらはどうせ大したことねぇから2人でボコボコにするぞ!」
「フレアは一旦落ち着いてね……」




