7話 ナイト工房
道中で出会ったパーカー魔女と共に、私とフレアはリトルナイト専門店『ナイト工房』へと入店した。
「すごっ……!」
『ひろーい!』
建物の外観から既に巨大だったが、室内はもっと広かった。
真っ白の清潔で未来感のある内装、真新しい棚にはリトルナイト関連の商品がズラリと並べられている。
置かれている商品はバトル関連の武器から日用品雑貨まで幅広い。
店内には沢山の客でごった返しており、リトルナイトを連れた客が多く見られた。リトルナイトは人間と一緒に、楽しそうに商品を物色していた。
(みんな楽しそうでいいなぁ……)
ふとファッションコーナーに目をやると、大きな靴を履いたスカジャン姿のスライムっぽい謎生物がいるのが見えた。まさかアレもリトルナイトなのだろうか。
「前にも来たけど、この光景は何度見ても慣れないなあ。カエ、気になるところはある?」
「どれも気になる……!」
「ははっ、だよね!」
広大な店内に思わず圧倒される。フレアもテンションが上がっているのか、とても楽しそうな様子だ。
「おはようございます、本日はようこそお越しくださいました」
2人揃って浮かれていると、私達を見た女性店員の1人がわざわざこちらまで歩み寄り、妙にご丁寧な態度で迎えられた。
私達を、というよりパーカー魔女を相手に接客しているようだ。
「お話は既にトール様より伺っております。客室へと案内します、どうぞこちらへ」
(話通ってたんだ、いつの間に……)
女性店員に案内され、明らかに店の関係者専用と思しき通路へと通される。
パーカー魔女を筆頭に、私とフレアはリトルナイトを連れて後をついていき、やがて大きめの客室に到着した。
「どうぞ、こちらでお待ちください」
「私は怪我がないか別室で確認してきます」
ここでパーカー女子は店員と共にこの場から離れる。
残る私達で客室に入ると、シンプルなデザインの家具でまとめられた、近未来感のある実にオシャレな部屋に迎えられた。
「お高そうな客室……」
室内に配置されている家具や小物はどれも高級そうだ。学生が案内されるような部屋ではない気がする。
「なんか、妙に綺麗だな……」
フレアも部屋の豪華さに違和感を感じているのか、困惑しながらも椅子に座った。
『僕にピッタリな椅子もある!』
「へぇ、リトルナイト用の椅子もあるんだ……」
椅子と椅子の間に、リトルナイトがくつろげそうなスペースがあった。
椅子やテーブルが置かれており、なんとリトルナイトサイズの菓子まで用意されている。流石はリトルナイト専門店。
「子ども相手に、わざわざこんな豪華な客室に案内するとは……あの子は一体何者なんだ……?」
フレアはパーカー魔女の高待遇ぶりに疑問を抱いている様子だ。
「店員もすごく丁寧に対応してたよね」
「対応からして、明らかに金持ちの子だよな……もしかして、お礼に結構いい物が貰えたりして……?」
『先に気付いて助けたのはオームラだというのに……フレア、図々しいにも程があるぞ』
「……冗談だよ」
リトルナイト用の椅子に大人しく座るゴウカから咎められ、バツが悪そうにするフレア。
フレアとはほぼ初対面だが、彼女の今の発言は割と本気で発言したように感じた。
「お待たせしました」
部屋の豪華さに困惑しつつも椅子に座り待機しているとドアがノックされ、身だしなみを整えてきたであろうパーカー魔女がリトルナイトと共に客室に入室してきた。
「改めまして。先程は助けていただき、どうもありがとうございました」
「いえいえ、無事で本当に良かったです」
「怪我がないようで何よりだよ」
静かに椅子に座ったパーカー魔女は、私達に向かって深々と頭を下げた。
「あ、自己紹介がまだでした。私の名前はトール・ハクギンです、よろしくおねがいします」
パーカー魔女のハクギンさんは被っていたフードを外して自己紹介をする。銀髪をウルフカットにした、無表情の可愛らしい女の子だ。
耳が尖っているのを見るに、やはり彼女も魔女だったらしい。
「で、この子は私のリトルナイトのハクヤです」
『よろしくお願いします』
ハクギンさんの肩に止まっていた魔術師姿のリトルナイトも自己紹介をしてご丁寧にお辞儀をする。
「ご丁寧にどうも……私はカエ・オームラです」
「私はフレア、フレア・ゴーカイ」
『僕ピント!』
『ゴウカだ』
私とフレア、そしてリトルナイトのピントとゴウカも簡単に自己紹介をしていく。
「よろしくお願いします。あの、改めましてお礼としてちょっとした提案を……」
「提案?」
「はい、決して悪い話ではないと思います」
ハクギンさんはほんの少し硬い口調のまま話を続ける。
「危ないところを助けてくれたお2人にはお礼として、好きなリトルナイトグッズをどれか1つ差し上げます」
「マジか!?」
ハクギンさんの申し出にフレアが真っ先に反応した。
「好きなグッズって……リトルナイトのパーツとかでも……」
「大丈夫」
「えっと、じゃあ……最新のリトルアイとか……!」
リトルアイが何なのかよく分からないが、フレアの口ぶりからしてそれなりに高価な代物のようだ。
「いや、流石にこれは高価すぎるか……」
「何色?」
「えっ」
ハクギンさんは表情1つ変えずフレアに色を尋ねる。どうやらフレアの要望は通ったようだ。
「えっ!? マジでいいのか!?」
「大丈夫」
「じゃあ黒!」
「分かった」
ハクギンさんが二つ返事で頷いてから暫くして。扉からノック音が鳴り、1つの大きな箱を持った女性店員が入室してきた。
箱のパッケージにはカーナビのような商品が描かれている。これがリトルアイなのだろう。
「最新のリトルアイでございます。どうぞ」
「マ、マジかよ……!?」
「どうぞ」
リトルアイを貰ったフレアは目に見えてテンションが上がる。どうやら相当いい物のようだ。
「フレア、それ何?」
「リトルナイトの視点を画面に映せる道具だよ! リトルナイトのバトルはミニチュアハウスなどの室内戦もあるから、バトルするなら絶対に必要な道具だな!」
「へぇ……」
リトルナイトの視点を見れるからリトルアイというわけだ。分かりやすい。
「で、オームラさんは何にする?」
「私? えーっと……」
リトルナイトは始めたてなので、いきなり欲しいグッズについて尋ねられても返答に困ってしまう。
「カエもリトルアイにすれば?」
「いや、今後バトルにハマるかも分からないし……」
今後も使用するかも分からない動画をお礼に貰うのも忍びない。だからと言って、この状況で何も貰わずに帰るのも相手に悪い。
「……あ、そうだ。ハクギンさんってリトルナイトに詳しいですか?」
「それなりに詳しいです」
私の質問に対し、ハクギンさんは自身ありげに答える。
「私はリトルナイトに詳しい、現代風に言うとリトルナイトオタク、です」
「リトルナイトオタク……」
『かいつまんで説明します。主であるトール様はリトルナイトに詳しい、現代風に言うとリトルナイトオタクなのです』
「何だコイツ……」
「ハクヤさん、トールさんと一字一句同じこと言ってるんだけど……」
「ごめんなさい。ハクヤは常にほんの少し様子がおかしいのです」
『故障してるの?』
「ピント、多分だけどそういう意味じゃないと思うよ」
リトルナイトごとに性格が違うとは聞いたが、まさかこうも性格が違うとは。
「話を戻します。私はリトルナイトにそれなりに詳しいです」
「リトルナイトに関して相当自信があるみたいだね。で、カエはそれを知ってどうするんだ?」
「いや、折角だからハクギンさんにオススメのリトルナイトグッズを幾つか教えてもらおうかと思って……」
「お安いご用です」
ハクギンさんは私の言葉に頷きながら答える。どうやら私の要望は通ったようだ。
「ありがとうございます! 実は私、リトルナイトにあまり詳しくなくて……つい昨日、リトルナイトを迎え入れたばかりの初心者なんです」
「初心者……」
私がリトルナイト初心者だと宣言をしたその瞬間、ハクギンさんの瞳の奥が一瞬光ったような気がした。
「リトルナイトの知識もあまりなくて……まだ知らないことばかりなので、色々と教えてくれると助か」
「分かった。絶対に後悔させない」
ハクギンさんは私の発言に食い気味に答え、私に向かってすかさず手を差し出した。
「よ、よろしくお願いします……」
「こちらこそ。リトルナイトの世界にようこそ……」
ハクギンさんの手を握り返して改めて挨拶をすると、ハクギンさんは不敵に微笑みながら妙な返事をした。
よく分からないが、ハクギンさんはすごく楽しそうだ。
「オームラさん、グッズを知るなら実物を見た方が早いです。一緒に店内を見て回りませんか?」
「えっ、一緒に来てくれるんですか? 私としてはリトルナイトに詳しい人が来てくれるのはとてもありがたいのですが……いいんですか?」
「むしろ私が引き受けたいです。こちらこそよろしくお願いします。では早速店内に戻りたいと思います」
食い気味にオッケーを貰い、ハクギンさんに連れられて駆け足で客室から出た。
改めて人で賑わう店内へと戻ったところでハクギンさんは再び口を開いた。
「では早速出発……する前に、最初に絶対に行くべき場所がございます」
「行くべき場所?」
「カエ、ここには便利な道具を貸し出してくれる場所があるんだよ」
「……何はともあれ、行ってからのお楽しみです」
「あ、内緒にしておいた方が良かったか。悪い」
フレアに軽くネタバレされつつも、私達はトールの案内により「行くべき場所」へと移動した。
「これって……」
移動した先にあったのは、肩掛けドリンクホルダーのような物をレンタルできるスペースだった。
「このお店で貸し出している肩掛けホルダー。何となく使用用途は分かると思います」
トールはレンタルした肩掛けホルダーを装着した。
それなりにしっかりしている肩掛けホルダーのホルダー部分には、よく見ると椅子のような物がくっ付いている。
『失礼します』
トールのリトルナイトであるハクヤさんは、トールの手に捕まりながらホルダー部分に移動し、ホルダー内にある椅子に着地した。
「リトルナイト入れだ……!」
これさえあればリトルナイトと一緒に買い物ができる。
「これでリトルナイトも一緒に同じ棚の商品を見れます。頑丈で造りもしっかりしてるから安心安全です」
『楽しそー!』
ピントは肩掛けホルダーに興味津々の様子だ。
「これ、すごく便利だよ。魔法道具だからリトルナイト入れて抱えても全然重くないんだよ」
「すごく便利だね……」
「気に入ったらお店で購入可能」
「購入検討してみようかな……」
一緒に店内を見て回れるようにできるとは、実に素晴らしいサービスだ。
私はすぐさま肩掛けホルダーを借り、ホルダーにピントを近付けてみる。
ピントは大喜びで私の膝に飛び乗り、そこからホルダー内にスルリと収まった。
(これ、確かに便利だけど……ピントを運ぶなら今の鞄で十分だよね。ここで財布の紐を少しでも緩めたらあっという間にすっからかんになりそうだし……)
ホルダーから顔を覗かせるピントはとても可愛らしいが、わざわざホルダーを購入するまでもないだろう。
購入しかけたがすんでのところで踏ん張った私は、それでもとりあえずピントに使い心地を尋ねてみることにした。
「ピント、どう?」
『いい感じ! 鞄より乗りやすいし揺れないから快適〜』
「それは良かった」
『あと、カエがすぐ近くにいるのもいいな〜。鞄の中からだとカエが見えないもん』
無駄使いは絶対にしないとして、とりあえず肩掛けホルダーは購入確定となった。




