6話 アクシデント発生
ピントと一緒に朝食を食べ終えた後、自室で自分とピントの身支度を整えた。
私は動きやすいいつもの私服で、ピントは上にオシャレなチョッキを着せた。
「うん、いい感じだよ」
『カッコいー!』
どうやらピントはチョッキを気に入ってくれたようだ。初めてのチョッキをまといクルクル回るピントはとても可愛らしい。
「ピント、行くよ!」
『レッツゴー!』
鞄にピントを入れて準備完了。庭でホウキに乗って一直線に空を飛び、再び自然公園へと移動した。
予定時刻である10時より少し早めに到着したが、公園には既にフレアの姿があった。
「フレア、お待たせ!」
『待った?』
「カエ、ピント、さっきぶり! 私も今来たとこだよ」
ホウキで飛んで来た私達をオシャレなフレアが出迎えた。私が地面に着地すると、ピントはすぐさま鞄から降りてフレアの元へと駆けて行った。
『あ、リトルナイトだ』
そんなフレアの側には、黒く輝くボディのカッコいいリトルナイトの姿があった。
「おぉ、フレアのリトルナイトすっごくカッコいい……!」
『強そ〜!』
長ランを着た番長と鎧を掛け合わせたような、イカしたデザインのリトルナイトだ。全身は鎧に包まれているが、頭部は完全に人に近い。
所々に付いている紅のパーツがかなりいい味を出している。
「カッコいいでしょ。私のリトルナイトの……」
『ゴウカだ。俺のことは呼び捨てで構わない』
フレアの言葉を遮るように、リトルナイト本人が自ら簡潔な自己紹介をした。
ゴウカはピントと違い、随分と大人しい性格のようだ。同じリトルナイトでもここまで違うとは。
「コイツはだいぶ大人しい奴なんだ。購入したリトルナイト自体が大人しいタイプだったからな」
「えっ? 購入したリトルナイトによって性格がある程度変わったりするの?」
「最終的には心をこめた本人次第だけど、リトルナイト本体も影響してるらしいよ」
まさかの新事実。
「リトルナイトによって性格が違うってことは……付け替えたパーツによって、リトルナイトの性格が変わったりするってこと?」
「いや、元のマシンに新たにパーツ付けても性格は変わらないよ」
「あれ?」
どうやら私の認識自体に間違いがあるらしい。
(今までリトルナイトにあまり関心が無かったせいで、知識が圧倒的に足りていない……!)
「リトルナイトの元となる本体があってさ。その本体ごとに違いがあるらしいんだよ」
「そうなんだ……」
よくよく考えてみれば、リトルナイトを購入した際に店員から「この子は穏やかでいい子なので扱いやすいですよ」と言われた。
あの時は店員ジョークだと思って笑って流してしまったが、あれはリトルナイトの性格について軽く説明してくれていたのだろう。
つまりピントは、とてもいい子になりやすいリトルナイトだったということだ。
「……もしかして、カエってリトルナイト初心者?」
「うん。今まであまりリトルナイトに興味がなくて……ピントも昨日買ったばかりで、よく分からないところばかりで」
『はじめましてだよ〜』
「そうだったんだ」
ピントはフレアとゴウカに向かって呑気に手を振る。ゴウカはそんな呑気なピントを無言で見つめている。
「でも、おとといやってたリトルナイトの大会に加えて、迎え入れたピントのお陰で今になってリトルナイトにはまりだして……」
「いいじゃん。私も昔、テレビでやってたリトルナイトの大会見てはまったクチだからよく分かるよ」
フレアは微笑みながら相棒であるゴウカをじっと見つめる。
フレアは恐らく、私よりずっと前にリトルナイトにはまり、リトルナイトと共に過ごしてきたのだろう。ゴウカにはそれなりに思い入れがあるに違いない。
「そうだ。カエが良ければ、リトルナイトについて私が色々と教えようか?」
「いいの? リトルナイトについて色々と知りたかったからすごくありがたいよ、むしろこっちからお願いしたいくらい」
「分かった! 私の知ってる範囲で教えるよ」
今後のためにもリトルナイトに関する知識はもっと欲しいところだった。なのでフレアの申し出は非常にありがたい。
「折角だから、最近できたばかりの大型のリトルナイト専門店に行くのはどう? 現物見ながら解説できるし、そこでなら大会さながらの派手なバトルも見れるよ」
「大きなリトルナイト専門店あるんだ……! 見に行ってみたい!」
『僕も気になる〜!』
「決まりだな! じゃあ早速行こうか!」
と、いうわけで。フレアによる道案内により、リトルナイト専門店に向かうことになった。
もちろん移動方法はホウキ飛行。ピントを鞄に入れてホウキに乗り、先に飛んだフレアに続いて私も空へと舞い上がった。
因みにゴウカは、ホウキの後部座席にワイルドな姿勢で乗っていた。かなりイカす。
「ねえフレア」
「何?」
町の上を飛行中。リトルナイト専門店に到着する前に、フレアにリトルナイトの基本について尋ねてみることにした。
「リトルナイトで、これだけは知っておいた方がいい基本とかある?」
「色々あるよ。バトルに興味があるなら、マジックパワーの概念は特に知っておいた方がいいな」
「あ、マジックパワーのことはもっと詳しく知りたいかも。雑誌で大まかに知っただけだし……」
「なら簡単に説明するよ。マジックパワーはリトルナイトの中で特に大事な要素だし、ある程度知っておいて損はないよ」
フレアはホウキを操縦しながらリトルナイトの魔法についての説明を始めた。
私はホウキの操縦をしつつ、聞き逃さないようフレアの話に集中する。鞄の中のピントもフレアに顔と耳を向ける。
「まず、リトルナイトは基本的な行動を取る時は魔力を使わない。けれど、魔法を伴う行動を取る時には絶対に『マジックパワー』が必要になってくる」
「特定の行動だけってことね」
「リトルナイトが魔力を100所持していると仮定する。で、リトルナイトは幾ら魔力を使用しても常に100のまま。魔力を20使用する魔法を一回使用しても、残り魔力は100のまま」
リトルナイトの体内では半永久エネルギー源のマナタンクが常に稼働し続けており、魔力は一切減らないらしい。
そのマナタンクのおかげで、常に魔力を出し続けることができると雑誌で知った。
「100のままだから、魔力20の魔法を使い放題ってことだよね」
「そう。だけど常に100しか出せないから、リトルナイトが使用する魔法は100を超えられない」
「つまり、魔力50の攻撃魔法を出している間は、50を超える魔法は使用できない……で、合ってる?」
「合ってる。逆に言えば、100を超えなければ常に複数の魔法を使い続けることができるってわけだな」
「流石はロボットゴーレム……」
定期的に魔石の交換が必要な上、一定の行動と特定の魔法しか使用できないゴーレムよりはるか先を進んでいる。
「つまり、100の魔力をいかに使いこなすかが大切になってくるんだね。どう使うかはリトルナイトによって変わってくるんだろうなぁ」
「そうだね。鎧を纏ったリトルナイトは鎧を頑丈にしながら戦うし、獣型のリトルナイトは常に身体強化でスピードを上げて駆け回ったりするし」
「へぇ、型によって立ち回りもガラリと変わって……」
『カエ! あれ!』
フレアの説明に耳を傾けていると、鞄の中にいたピントが唐突に騒ぎ出した。
ピントは慌てて鞄から身を乗り出し、しきりに遠くの方角を指さしている。
「ピント、どうし……っ!?」
私はピントの指差した方角を見つめ、先に見えた妙な光景に思わず言葉を失ってしまった。
「やばっ!」
私は大急ぎで進路方向を変え、全力でホウキを飛ばす。私の動きに気付いたフレアとゴウカが私を見つめる。
「カエ、何かあった?」
「あっ、あれ! フレアあれ見て!!」
「えっ?」
私はホウキを全力で飛ばしながら、遠くに見える物体を指差した。
「なっ……!? 何だアイツ!?」
私とフレアが見た先にあったのは……ホウキの棒に足を引っ掛け、逆さまのまま空を飛ぶ魔法使いの姿だった。
「何してんだアレ!?」
「いや、あれってどう見ても緊急事態……!」
「だよな!? おいそこの魔法使い! 大丈夫か!?」
フレアも大慌てで逆さ吊りの魔法使いの元へとホウキを飛ばす。
フレアの背後にいるゴウカはホウキの後部座席で立ち上がり、何が来てもいいよう身構えている。
「大丈夫ですかー!」
事故を起こした魔法使いは、雰囲気から察するにどうやら魔女のようだ。
可愛らしいショートパンツとガラつきのタイツ、そしてパーカーの上着を身につけた小柄の可愛らしい女の子だ。
「エ……」
魔法が届く距離まで近付いたその時、逆さ吊りの魔法使いは絞り出すかのような声を発した。
「エ……エク……」
「?」
「エ、エクス……キューズ、ミー……」
「言ってる場合かよ!」
『主、段階を踏まえて声をかけている場合ではございません』
パーカー魔女の発言に、フレアだけでなく別の誰かが返事をした。
パーカー魔女のホウキをよく見ると、ホウキの先端にローブを着込んだような魔術師っぽいリトルナイトが立っているのが見えた。
どうやら彼が、操縦者不在となったホウキを操縦していたようだ。
「今助けます!」
「それっ!」
私は取り出した杖で魔法を発動し、パーカー魔女の身体を掴んで持ち上げる。フレアはグローブ型の魔道具で魔法を使って魔女を支え、ホウキへと近付けていく。
「間一髪……」
上半身を持ち上げられたパーカー魔女はすぐさまホウキにしがみついた。どうやらギリギリで事なきを得たようだ。
『ご親切な魔女様、助けてくださりありがとうございます』
パーカー魔女がホウキの座席に復帰している間、カラスを模した魔術師姿のリトルナイトが私達に丁寧に礼を述べた。
(それにしても、リトルナイトって凄いなぁ……)
まさか危機に陥った魔法使いの代わりにホウキを操縦するとは。使い魔として流行するのも頷ける。
(……って、感心してる場合じゃないよね。逆さ吊りになった際に何か不具合が起こった可能性もあるし……)
ここはパーカー魔女と共に、一旦どこかに着陸した方がいいだろう。
「あの、とりあえずまずは安全確認を……」
「そうだな。とりあえず近場に着陸してホウキや道具の確認した方がいいかもな」
『分かりました。では、この先にあるリトルナイト専門店の駐車場に着陸しましょう。主もそれで宜しいですね?』
「へい……」
リトルナイトの発言に対し、パーカー魔女は気の抜ける返事をして頷いた。
数分後……
「魔法使いのお2人さん、助けてくれてありがとうございました」
目的地へと到着し、無事に安全確認を終えたパーカー魔女は私達に頭を下げてお礼を述べた。
「あのまま飛び続けてたら恥を晒し続けるところでした。感謝」
「アレはもはや恥どころじゃなかったろ……」
「無事で本当に良かった……」
何故あんな状態になったのかは謎だが、大事故に繋がらなくて本当に良かった。
そんな中、鞄からピョンと飛び降りたピントはパーカー魔女に一つ質問を投げかけた。
『ねえねえ、さっきなんであんなことになってたの? 逆さまにブラーンってなってたよね』
「こらピント、わざわざ聞かないの」
『気になるじゃん』
(確かに気にはなるけど……)
『分かりました。助けてくれたお礼にお教えします』
(教えてくれるんだ……)
魔術師姿のリトルナイトは私達に身体を向け、ことの顛末を語り出した。
『実は先程、近くを鳥型魔獣が通り過ぎたのです。主はその魔獣を倒そうと杖を取り出したのですが……』
「まさか、杖を取ろうとしてバランスを……」
「いえ、杖を取り出して無事に獲物を倒せました。しかし、倒す際に余裕ぶっこいて妙なポーズをとったが為にバランスを崩し……」
まさかの不注意だった。
「何はともあれ大助かり、です」
フレアと共に呆然とする中、パーカー魔女は再び口を開いた。
「折角助けてくれたのに、このまま何もせず解散させるのも忍びないです。なので、ぜひともお礼させてほしいです」
「いや、お礼は……」
「カエ、本人の気の済むようにしてやろう」
「あ、うん。それもそうだね……」
フレアなりの優しさに私は納得して頷く。
「ありがとうございます。もし差し支えなければ、一緒にリトルナイト専門店『ナイト工房』に来てほしいです。そこでお礼します」




