5話 魔女との交流
よく晴れた早朝の自然公園にて。
ランニングに連れてきたリトルナイトのピントがきっかけで、ちょっとした一悶着が発生した。
が、赤髪のお姉さん魔女が加勢してくれたおかげで事態は収束。敵対しそうになった子ども達と何とか和解できたのだった。
「魔女のお姉さん達じゃあね〜!」
「ピントくんばいばーい!」
そろそろ朝食の時間なので、ホウキ乗り体験は切り上げ。子ども達とお別れすることに。
「みんな、気をつけて帰ってね〜。次からは怪しい人を見ても突撃したらダメだよ〜」
「もう喧嘩じみた真似するなよ〜」
『バイバ〜イ』
子ども達に手を振りながら、赤髪のお姉さんと共に速やかに公園から退散した。
公園の広場から出たところで、私は改めて赤髪のお姉さんに礼を述べた。
「さっきは助けてくれてありがとう。あのまま疑われていたら今頃どうなっていたことやら……」
「いいよ。ああいった生意気な年下はよく相手してるからね、あれくらい慣れてる」
赤髪のお姉さんは軽く手を振りながらかっこよく笑った。
「そうだ、自己紹介がまだだったね。私はフレア・ゴーカイ、宜しく」
「私はカエ・オームラだよ。で、こっちのリトルナイトはピント」
『よろしく〜』
「カエとピントだね、宜しく。2人はホウキ乗りの為に公園に?」
「そうそう、ホウキ通学になるから練習しておきたくて」
私達はその場で足を止めてお互いに自己紹介を交わし、そこから流れで雑談に入る。
「で、ピントがホウキ乗ってみたいって言うから、一緒に公園に連れて来たんだよ」
「へぇ、ピントは好奇心旺盛だね。ピント、ホウキ乗りは楽しかった?」
『まだ乗れてない。でもホウキ持ってジャンプしたらフワフワして楽しかった』
「それは良かった」
助けに入ってくれた時から思っていたが、ゴーカイさんはとてもいい人だ。私達の間に和やかな空気が流れる。
「いやぁ、それにしても……まだ早朝なのに小学生があんなに沢山来るとは」
夏休みなら朝の体操があるからまだ分かるが、春休みにあんなに早起きする意味はあるのだろうか。
「あー、あれか。多分だけど、小学生の間で『朝日光浴』が流行してるせいだと思う」
「朝日光浴?」
「うん。早起きして朝日を浴びると体内の魔力が増加するとか、そんな妙な噂が小学生の間で流行ってるらしい」
「へぇ〜、初めて聞いた」
『太陽浴びると本当に魔力上がるの?』
「いや、弟から噂を聞いただけだから詳しくは知らない。けど、弟は強い魔法使いになりたいからって、早起きしては友達と外で遊んでるらしい」
「魔法使いは子どもにとっても憧れだもんね、そりゃこんなに子どもが来るわけだよ」
ゴーカイさんは小学生の弟がいるらしい。そのおかげで、早朝から沢山の子どもがいる原因が分かりとてもスッキリ。
「あ、そうだ。ねえ、オームラってどこの学校通ってんの?」
「私? 私は今年からこの町の魔法学園に通う予定」
「どこ高? 森林? 大空?」
「大空だよ。大空魔法学園」
大空魔法学園とは、魔法で隠された町中にあるとても大きな名門学園だ。
「えっマジ!? 私と同じじゃんか!」
「えっ? もしかしてゴーカイさんも同じ学園? 新入生?」
「そう! いや、オームラは絶対に魔法学園の生徒だろうとおもってたけど、まさか同じ学園だとは!」
「えー! 外で偶然同級生に会えたってこと!? すご!」
なんとフレアも、私が通う予定である魔法学園の新入生だったらしい。まさかの同級生。
「同級生なら遠慮はいらないじゃん、カエって呼んでいい?」
「いいよ! 私もフレアって呼んでいい?」
「勿論!」
学園に通う前に魔法学生の友達ができた。これは嬉しい。
「いや嬉しいなぁ……私、ここに引っ越してきたばかりで友達居なかったんだよね」
「そうだったの?」
私達が立ち話をしている間、ピントは近場のベンチに飛び乗ってちょこんと座り私達をじっと見つめる。
「実家より祖父母の家の方が学園近いからさ、私だけ引っ越してきたんだよ」
「そうなんだ。じゃあこの町のこともまだよく分かってない感じ?」
「いや、此処に来てからあちこち回ってはいるから多少は知ってる」
同じ学園に通う同級生と分かってから更に会話は長く続いた。ピントは話に混じれず、途中から暇そうに脚をぶらぶらしていた。こればかりは本当に申し訳ない。
しばらくして……
「……あ、そろそろ朝食の為に戻らないと」
「あっ、ホントだ。もうこんな時間」
話し続けて数十分後。携帯を開いて時間を確認すると、もう時刻は午前7時30分。朝食の為にも、そろそろ家に帰らなくては。
「あっという間だったなぁ。ねえカエ、春休みの間にまた会えない?」
「いいよ。何なら朝食食べた後からでも会えるけど」
「マジ!? なら10時くらいにまたこの公園に集合しない? お互いにリトルナイト連れてさ」
「いいよ!」
『フレアのリトルナイトに会えるの? どんな子?』
「人型リトルナイトで名前はゴウカ。クールな奴だけどノリはいい方だよ。そうだ、メアド交換しとこうよ」
この後フレアとメアド交換をして、ここで一旦解散となった。
「じゃ、また後で!」
「じゃあね!」
『バイバ〜イ!』
広い場所でホウキに乗ったフレアは、空を飛んで公園から去っていった。
そこそこの高さで飛んでいるのを見るに、フレアもホウキ飛行免許を持ってたようだ。
「さて、私達も行こっか。ピント、鞄入って」
『はーい』
ピントを鞄に入れ、乗り込んだホウキで屋根より上を飛んで来た道を戻る。
『空がひろーい!』
ピントは鞄から身を乗り出し、大はしゃぎで空からの景色を堪能している。
「ピント、はしゃぎ過ぎて落ちないように気をつけてね」
『分かった!』
注意を受けたピントは鞄に少し戻り、僅かな隙間から景色を眺めている。とても可愛らしい。
楽しそうなピントの為に、普段より速度を落としてゆっくり帰宅した。
「ただいまー」
『ただいま〜!』
家の庭に着陸し、玄関でピントの脚をウェットティッシュで拭いてから家に上がる。
「カエ、おかえりなさい。朝ご飯できてるから手を洗ってらっしゃい」
「はーい」
家に上がってすぐさま手洗い場に移動し、手洗いうがいをしてから食卓に移動する。ピントも私の後をついてスタスタ歩く。
テーブルの上には私の朝食である焼き魚定食が並んでいる。ご飯に味噌汁、焼き魚に漬物のバランスのいい美味しそうなご飯だ。
「あれ?」
そんな私の朝食の隣には、小さなおにぎりとほぐした焼き魚を乗せた小皿が置かれていた。
「お母さん、これって……」
「リトルナイトの分の朝食。リトルナイトもご飯食べれるんでしょ?」
「えーすご! わざわざ作ってくれたんだ」
『僕の朝食!? やったー!』
自分の分もあると聞いたピントは大喜び。私ははしゃぐピントを持ち上げてテーブルの上に置いた。
『おぉ〜! 美味しそ〜!』
「あら、リトルナイトってそこそこ大きいのね」
「手のひらサイズとか言われてるけど、実際に見たら割と大きく見えるよね。あっそうそう、この子はピントって名前にしたよ」
「ピントちゃんね。朝食、これで足りるかしら」
「大丈夫だと思うけど……ピント、どう?」
『いい感じ〜』
どうやらピントから見ても丁度いいらしい。
お母さんはリトルナイトの大会は好きではなかったようだが、リトルナイト自体はそこまで否定的ではなかったようだ。むしろ扱いがいいまである。
「……お母さんのそういうところは好きだよ」
「一言余計! ほら、早く食べちゃいなさい」
「はーい、いただきます」
『いただきまーす!』
ピントと一緒に手を合わせて朝食を食べる。おにぎりを頬張るピントはとても可愛らしく、私のご飯を食べる手はしばしば停止した。
お母さんもピントの食事は可愛らしいと思っているのか、時折手を止めては微笑ましそうにピントを眺めていた。
ピントが相当可愛らしかったからなのか、なんとお母さんは私達に食後のデザートまで出してくれた。ピント様々だ。




