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37話 魔女への助太刀

 カマイタチ型リトルナイト『ダイキチ』の介入のおかげで、袋小路に追い詰められていたピント達はリトルナイトの群れを見事に撃退した。


 しかし、安心するピント達も元に現れたヴァルハラカフェの店長の一言により、場の空気は再び緊張感に包まれることとなった。


「君達には急いでパートナーの元へ駆けつけてほしいんだ」


 店長の言葉に、ゴウカ含むリトルナイト全員が反応する。


『まさか、フレア達に何かあったのか……?』


「……今はハクヤくんが向かってくれている。あの状況を止められるのはおそらく君達しかいない」


『……分かった。ピント、カイエン、急いでフレア達を迎えに行くぞ』


 ゴウカの言葉に周りのリトルナイトは静かに頷く。そんな中、店長はゴウカ達に視線を向けて更に言葉を続ける。


「パートナーのいる場所は、君達がさっきまでいた場所らしい。皆んな、道は分かるかな?」


『えーと……僕はここ来たことないから分かんないかも』


「まあそうなるよね……とりあえず俺が案内するよ、ついて来て!」


 ゴウカ達は主人の元に向かうため、ダイキチの主人である光朗の案内に従って走りだした。



『カエ、大丈夫かな……』


『スミ……! 無事でいてくれ……!』


 走行中、ピントとカイエンは現場に残してきた主人の安否を心配する。

 だが、その中でゴウカだけは平然とした態度のまま前に進み続けている。


『全員魔女だから少なくとも無事ではあるだろう。むしろ……』


『?』


『いや、それより気になることがある。光朗』


「どうした?」


 ゴウカは先頭で走る男子生徒の光朗に声を掛ける。光朗と、ついでに肩に乗っていたカマイタチ型リトルナイトのダイキチはゴウカの方に耳を向ける。


『此処までくる道中で、あの改造リトルナイト狩りをしている奴らの主人とは会わなかったのか?』


「ああ、でくわしたよ。相手はバリバリの不良で、向こうは喧嘩する気満々だったみたいだけど……」


『けど?』


「ハクヤが出した写真を見たら、皆んな慌ててどっか行ったよ」


『不良も逃げ出すくらい酷いもの写ってたの?』


『ハクヤは一体どんな写真見せたんだ……?』


「ええっと、あれは確か……怪我した男子と美人な女子が写った写真だったかな……あ、リトルナイトも映ってたね」


 光朗の言葉に、光朗の友人である小次郎が説明を付け足す。


『男女の写真? それは一体……』


 ゴウカは更に詳細を尋ねようとするが、そんなゴウカ達の前方に妙な空間を発見した。


『あっ! あった! あれだ!』


 先程までフレア達が立っていた空間が歪んでいた。


『なんか変なかんじ……』


「この場所に異空間が発生してるんだってさ。この歪んだ場所に向かって飛び込めば異空間に入れるらしい」


『よし、今すぐ飛び込もう』


「えーと……この穴の向こうって不良が沢山いるんだよね?」


 勇み足のゴウカに対し、光朗は途端に弱腰になる。


「素人が下手に飛び込んだところで迷惑になるだけだし……なら、一般人である俺達は此処で待機していた方がいいよね?」


「何言ってんの光朗! 僕らだって立派な魔法学生でしょ、ここは魔法学生として助けに向かわないと!」


「えぇ……でも、素人が入ったところでできることは限られてるって。此処は下手に入らず……」


「学生の僕らで、できる限りのことをするんだ! ほら行くよ!」


「うわーっ! 小次郎のそういう過剰な正義感みたいなのホント良くないと思う!!」


 小次郎は光朗の腕を掴み、何のためらいもなく異次元の出入り口へと飛び込んだ。


『俺達も続くぞ!』


『おーっ!』


『スミーッ! 無事でいてくれーっ!』


 リトルナイト3体も光朗達に続いて異次元空間へと飛び込んだ。


『さっきと同じ場所だね』


『異様に暗いな……』


 先程と同じ場所であるものの、全てが絶妙に違っている。空は晴れ模様だが曇り同然の暗さだった。


『よく見ると看板の文字も絶妙に違う……』


『この異空間は土地の記憶から生み出されたものだろうな』


『ピント! ゴウカ! そんなことは今はどうでもいい! スミの元に向かうぞ!』


『そうだった。ゴウカ、リトルアイでフレアとやり取りできない?』


『やってみる』


 ピントの提案にゴウカは頷き、その場で立ち止まる。


『フレア達は……駄目だ。フレアはリトルアイを閉じてるらしい』


『んーと……』


 ゴウカは首を横に振る。そんな中、ピントはあちこちに顔を向けて耳を立てる。


『……あっ! あっち! あっちの方向から声が聞こえてくる!』


『向こう……?』


 ウサギのピントはピンと耳を立てると、駐車場へと続く道を真っ直ぐ指差した。


『なんかフレアが喋ってる……のかな? なんか怒ってるみたい』


「怒ってる?」


『ピント、スミは無事か?』


『うん。なんか笑ってる』


『笑ってる……?』


 音から拾える情報を聞いた光朗とカイエンは首を傾げる。


『もしかすると……想像してる以上に悲惨な状況になってるかもしれないな』


『ゴウカ、どういうこと?』


『……とりあえず行くぞ』


 ゴウカ達は無言のまま、フレア達が居ると思われる現場へと移動した。




『あっ、いた!』


『これは……』


 広い駐車場へと移動したゴウカ達は、とんでもない光景を目の当たりにした。


「これは……不良が魔女にひれ伏してる……?」


「というより……説教してる?」


 そこには、巨大なコンクリート片の山に座ったフレアの姿があった。


『あ! カエ!』


『スミ! 無事で良かった……!』


 フレアの後方にはカエ、トール、スミが佇んでおり、静かにフレアを見つめている。


「で、不良達は……」


「随分と大人しいね……」


 コンクリート片の上に鎮座するフレアの前には、無言のまま大人しく正座する不良の群れがあった。


「俺はよぉ、感動してたんだぜ?」


 大量の不良を前に、魔女の証である尖った耳を露わにしたフレアは口を開く。


「俺はな、目の前で遠回しに暴言を吐いてくる奴は大嫌いだ。そんな奴より、真正面から堂々と暴言吐いて喧嘩売ってくる奴の方が遥かに信頼できる」


「…………」


 フレアの話を、不良達はただ俯きながら黙って傾聴している。


「正直言って俺は、お前たちの覚悟を見て大喜びしたんだ。仲間のために魔女に立ち向かうなんて、なんて熱い奴らなんだってさ……でも、ガッカリだよ」


「…………」


『最初はあの不良共も好戦的だったというのか……?』


『でも戦うのやめちゃったのかな』


 フレアの説教を遠くから眺めるゴウカ達。沈黙を貫く不良を前に、カイエンとピントは疑問を口にする。


『これは恐らく、フレアが大暴れして不良を黙らせたんだろうな……』


 ゴウカが推測する中、フレアは再び口を開く。


「本当に残念だ。まさか……慌ててその場から退散しようとしたカエがその場で転倒して、その弾みで電柱を縦に真っ二つにしたその途端、全員大人しくなっちまいやがって……」


「でも、それのお陰で全員止まったし結果オーライじゃない? 怪我した人もいなかったし……」


 フレアの言葉にカエの言葉が付け足されたことで、フレアの言葉に信憑性が増した。


『不良達が黙ったのって、カエが原因だったんだ……』


「カエって……あの初心者の? あの子、そんなに力強かったの……?」


 よくよく見ると、カエの背後には綺麗に割れた電柱が置かれている。


「ひぃ……」


 それを見た光朗は、かつてカエに喧嘩を売っていたことを思い出したのか顔を青くする。


『……とりあえず、フレアを止めに行こう。これ以上は不良達が可哀想だ』


『あれ? でもハクヤが先に入って止めに行ったんじゃないの? ハクヤはどこ行ったの?』


『そう言えばそうだったな……』


『確かに見かけんのう』


 ピントの疑問に、ゴウカとカイエンが反応して辺りを見回す。

 ピントは耳を動かして辺りを探り、やがて目当ての白カラスのリトルナイトを発見した。


『いた! 看板に腰掛けてる!』


『あんな大人しくしてる奴をよく発見できたな……』


『なんかシャッシャッて聞こえた』


『何だその音』


『ハクヤ……! ワシらより先に来ておいて何故止めに走らん!』


『おいカイエン、まずはフレアを止めに走ったらどうだ』


『この状況ならば説教が先じゃ!』


 ハクヤの行動に怒ったカイエンは、真っ先にハクヤの元へと向かう。フレアが優勢であるこの状況で、フレアを助けに走る者は誰もいない。


『ハクヤーッ!!』


『おーい、ハクヤ〜』


 怒鳴り散らすカイエンに続き、ハクヤが気になった他のメンバーもハクヤの元へと向かう。

 やがてハクヤの元へと到着した。ハクヤはリトルナイトサイズのキャンパスに向かって熱心に何かを描いている様子だ。


『おいハクヤ! 何をしとる!』


『おや、皆様お揃いで』


『この場を仲裁せずに呑気に絵など描きおって……! 見せんかこのっ!』


『あっ』


 カイエンはハクヤのいる看板に飛び乗り、ハクヤのキャンパスを強引に奪い取った。


『…………何じゃこれは』


『風景画です』


 ハクヤが描いていたのは、フレアが不良に説教している今の現状を切り取った風景画だった。

 カイエンの持つ絵をゴウカとピントも覗き込む。


『おいハクヤ、何でこのタッチで描いたんだ』


『なんかニュースでよく見るタッチの絵だね』


 ハクヤの描いた風景画はさながら法廷画のようなテイストで描かれており、それでいて非常に出来が良かった。


『渾身の力作です』


『こ……こんな……』


 カイエンは手に持つハクヤの絵をゆっくりと握りしめていく。絵が歪み、紙はクシャクシャになってゆく。



『こんなモン描いてる暇があるのならすぐに止めに入らんか貴様ーっ!!』



 カイエンは手に力を込め、ハクヤの絵をキャンパスごと握り潰してしまった。


『あぁ!! 渾身の力作が!!』


『たわけーっ!!!!』


 静まり返った現場に、ハクヤの悲鳴に近い嘆きとカイエンの怒号がこだました。

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