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31話 不良と遭遇

「君達すごく可愛いね、ちょっと一緒にお茶しない?」


「お茶……?」


 リトルナイトカフェ『ヴァルハラ』の前で、不良らしきチャラい学生の群れに声を掛けられてしまった。


 不良は全員魔法が使えるようだが、だとしても耳を隠している魔法使いの群れに声を掛けるとは。なんて命知らずな不良なのだろう。


「あ、リトルナイト連れてるじゃん。もしかして君達、リトルナイトのカフェ行くつもりだった?」


「そんなカフェ行くより俺達ともっと楽しいとこ行かね?」


「えっと……」


(学生さん早く気付いて……今、話しかけている相手は魔女の群れだよ……!)


 今一番危ないのは目の前の不良連中だ。いくら魔法が使える集団とはいえ、魔女1人に勝てる見込みは一切無い。


「ていうか俺達、どっかで会ったことあるよね?」


「なんか運命感じるね〜。ねね、俺らすげー楽しい遊び知ってるけど? どう?」


「は? こんなところでナンパかよ。俺達はカフェ目当てで来たんだ、邪魔すんな」


 フレアは荒い口調で不良連中を追い払おうとするが、そんな頼み方で不良連中が引くわけがない。


「えーなんかフラれたんだけど」


「は? まさか俺らの誘い拒否できると思ってんの?」


「うん。私達はカフェに行きたいから、バイバイ」


「へぇ、君生意気だね」


 トールは不良達には目もくれず、私達を引き連れて速やかにその場から離れようとする。

 だが、行く先を不良の群れに阻まれてしまった。


「おっと、話を聞いてくれなきゃ通さないよ」


「俺達魔法使いなんだよね。ほら、俺達の髪すっごく鮮やかっしょ?」


「君達はこれ見た上で、後でどうなるか分かってそんな口聞いてるってことだよね? で? どーすんの?」


(どうかなった時に1番危ないのは確実にそっちなんだけど……)


 彼らの髪は見たところ染めた物らしい、なので詳しい戦力は分からない。

 しかし本当に強いのならば、魔力の多さをある程度誇示できる髪をわざわざ染めるような真似はしないはずだ。つまり彼らはそこまで実力はないと思われる。


「……俺達、お姉さん達にお話ししたいことがあるんだよね。ちょっとお話しよっか」


「話すことない」


「こっちがお話したいって言ってんだよ」


 男子学生達は私達に向かってズンズン距離を詰め、私の腕を強引に掴もうと手を伸ばしてきた。


「うわっ!」


 私は咄嗟に腕を躱す。ここでふと昔の記憶が蘇る。


 私が小学生だった頃。お正月にお爺ちゃんのいる田舎に寄り、親戚の集まりに参加していた。


 私が他所の子と遊んでいると、ワイワイ盛り上がっていた宴会場で突如として野太い叫び声が響いた。

 どうやら仲が良かった魔女のお姉さんが力自慢の叔父さんと腕相撲勝負をしたらしく、その際に力加減を誤って叔父さんの手を握り潰してしまったらしい。


 幸い近所に医療系魔法使いがいたので早急に処置ができたようだ。

 だがそれ以降、私は人間の弱さ、魔女の力がいかに強いのかを実感したのだった。


(こんな大して強くもない相手に、下手に力は入れられない……)


 恐らく相手は、私の腕を掴んで何処かへと連れて行こうとしたのだろう。

 しかし、力の弱い魔法使いの腕力では、魔女を連れて行くのは絶対に不可能だ。


 むしろ変に接近されたら相手が怪我するリスクが急増してしまう、それどころか下手したら私が加害者になってしまう。なのでそれだけは絶対に避けたい。


「あっ、避けられた」


「あの、腕掴むのはやめた方が……」


「えー? じゃあ俺達について来てくれる?」


「それは嫌だけど……」


「ならやめない」


(相手は私達の牽引を止める気配はなさそう……)


 なんて考えている間に、相手は再び私に腕を伸ばす。


「待って」


 しかし、相手の手が伸びる前にトールが私を引っ張って後方に下がらせ、代わりに私の前にトールが躍り出た。


「お? もしかして君が代わりになるとか?」


「違う」


 トールは不良の1人を真っ直ぐ見つめ、不良達に妙な一言を告げた。



「私達が持ってるリトルナイトは改造じゃない」



「…………」


 トールの言葉を聞いた不良達は不気味なほどに一斉に黙り込んでしまった。


「トール、それってどういう……」


「はっ、やっぱりか」


 トールに詳細を確認しようと声をかけるも、不良が不機嫌に吐き捨てた言葉によって遮られた。


「こっちが何も言わずとも、俺らが改造リトルナイトの話をしたいって分かるってことは、やっぱお前達のリトルナイトは改造なんだな?」


「違う」


「とぼけんな!」


 相手の言い掛かりをトールは否定するが、不良の1人が大声で吠えた。カフェの周囲を歩いていた一般人は驚きこちらへ顔を向ける。


「俺達の仲間がなぁ! 耳飾りを付けた女が連れていた改造リトルナイトに襲われたんだよ!」


 どうやら私達の持つリトルナイトを改造だと疑われたらしい。疑われるのはこれで2度目だ。


「仲間ん中で犯人の姿を見た奴がいんだよ……! 銀髪で白いカラスのようなリトルナイトを連れてたってよ!」


「はぁ?」


「そんな珍しい髪色した奴を間違う訳ねぇだろうが! あぁ!?」


「その情報は確かなの……? 間違い無い?」


「仲間の情報は確かだ! お前達みてぇな卑怯者共と違ってな!」


 どうやら目の前の不良達は仲間を襲われたらしい。不良達は私達を前にヒートアップしていく。


「待って! 私達が持ってるリトルナイトは改造じゃない……あ、あれ……?」


 私は身の潔白を証明する為にピントを鞄から取り出そうとしたが、なんと鞄の中にピントの姿が見当たらない。


「ピントがいない!」


「あ、ピントくんはカイエン連れてどっか行ったよ」


「えっ!?」


「……リトルアイからゴウカからの反応が消えてる。おい、まさかお前ら……!」


「ははは……! どうやら作戦は上手くいったみたいだな……!」


 フレアのゴウカ、トールのハクヤ、そしてスミのカイエンも行方不明。どうやら不良達の「作戦」により何処かへと連れてかれたらしい。


 私達が戸惑っていると、目の前の下っ端らしき不良が携帯電話を片手にリーダーらしき不良に声をかけた。


「リーダー! リトルナイトの隔離に成功したって!」


「よっしゃ! 今だ!」


 不良リーダーは意を決したかのようにポケットから古い札を取り出すと、札に魔力を注ぎ込んだ。


 その瞬間。景色が一瞬で薄暗い闇に覆われ、周囲から人の気配が消え失せた。


「これってまさか……結界か……!?」


「うん。みんな結界の中に閉じ込められた」


「嘘でしょ……!?」


 なんと不良達は自らの意思で強力な結界を張ってしまったらしい。


(これって……不良達、終わったのでは?)


 見たところ、この結界は誰だろうが脱出は不可能のようだ。つまり、不良達は魔女の前から逃げも隠れもできなくなってしまったということだ。


「改造リトルナイトを持たないお前達なんざ怖くもねぇ! やられた仲間の仕返しとして、お前達は一生病院にぶち込んでやるからな……!」


「卑怯者共が! 覚悟しやがれ!」


 不良達は息巻くものの、隣にいるトールとフレアからは不良とは比べ物にならないほどの多量の魔力を感じる。これはかなりまずい。


(多分トールとフレアならそこまで酷い目には遭わせないとは思うけど……)


 せめて私だけは不良達の無事を願おう。


「お前らは絶対に無事では済まさねえ、二度と外に出られないようにしてやる」


 仲間の仕返しに燃え上がる不良達。


 対するトールは目を爛々と輝かせ、フレアの頭髪は炎のように揺らめく。そしてスミはそんな様子をニコニコ笑顔で眺めている。


(少なくともフレアはめちゃくちゃ怒ってる……)


 これはもうダメだ。私はこれから起こるであろう惨状から目を逸らす為に、その場で静かに目を閉じた。

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