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25話 リトルファイト部から抜けたわけ(後編)

(ついに来たな……入部テストで特に難関とされるゴブリン始末!)


 ゴブリンはそこまで強くはないが頭は賢く、普段は群れで活動をする。


 ずる賢いゴブリンの立ち回りは非常に厄介。初心者は絶対に戦ってはいけない魔物の1体だ。


(少数で移動する斥候ゴブリンを発見できれば楽に倒せるけど……これは入部テスト、実力を示さなければ2軍行き……)


 フレアは審査員であるミリカ先輩を横目で見つめる。ミリカ先輩はフィールド上のカメラをいじり、真面目にゴウカの動きを観測しているようだ。


(1軍に入るためにも、ここはとにかく自分の力を見せつけないとな。今回は思い切ってゴブリンの群れを狙おう)


 ゴブリンの群れは主に、大勢で獲物を追い込む狩りを行う『巻狩まきがり』の群れと、別の魔物やゴブリンを囮にして狩りを行う群れが存在する。


(どちらも本来は厄介だけど、こっちにはチャージマックス寸前のゴウカがいる。群れで来ようが一網打尽だ!)


 フレアはリトルアイ越しにジャングル内の状況を確かめる。


(ゴブリンが出現するのは此処からもっと奥地……そして狙うのは囮を使わない方の群れだな)


 囮を使う群れは特に賢くて用心深い。戦う相手が強いと分かれば、すぐさま近くのゴブリンの群れに助けを呼びに向かう。


(増援を呼ばれたら絶対に泥沼化する……だからこそ、真っ直ぐ向かってくる単純な攻撃型の群れを狙う!)


 フレアは戦う相手を定めると、ゴウカをジャングルの奥地へと向かわせた。


 鎧を閉じ、草木に紛れながら慎重に奥地へと向かう。

 しばらく移動していると、森の中で武器を片手に移動するゴブリンの群れと遭遇した。


(いた! 囮を使わないゴブリンの群れだ!)


 囮を使用する群れはその性質上、草むらなどに身を潜めながら行動していることが多い。

 目の前を移動するゴブリンの群れは隠れず行動している。


(巻狩をするタイプの群れと見て間違いない……ゴウカ、奴らを魔物の多い奥地から移動させるぞ。投石で奴らの注意を引け)


 フレアの指示を聞いたゴウカは、ゴブリンの群れに向かってその辺の石を投げた。


『ギャーッ!』


 石を投げられたゴブリンの群れは騒ぎ出し、方角に向かって突撃を始めた。


(よし、後は奥から誘導するだけ……)


 ゴウカはゴブリンと適度な距離を置いて逃げ始めた。だが、そんなゴウカの目の前に別のゴブリンの群れが姿を現した。


『ギャーッ! ギャッギャッ!』


『!』


(しまった! あれはまさか囮を使う群れ!? ずっと後をつけられてたのか!?)


 どうやらゴブリンの群れを探している最中に、囮を使うタイプの群れに発見されたようだ。


 ゴウカはゴブリンの群れの捜索に集中したがために後方の群れに気付かず、此処まで追跡されてしまったようだ。


(くそっ! こうなったら此処で決めるしかない! ゴウカ、鎧を解放して一気に仕留めるぞ!)



 数分後……



「よっしゃ! 勝てた!」


 アーマーチャージで魔力攻撃力を上げたゴウカは、強力な魔法攻撃でゴリ押しをして何とか勝利を掴んだ。


「へぇ、フレっちあの状況を打破できたんだ! すごいね!」


「あっ、はい! バトルには自信があったので!」


(途中でこそこそと逃げ出すゴブリンを潰したお陰で増援も来なかったし、運良く他の魔物とも遭遇しなかった……! 経緯はどうあれ、良い結果を出せた!)


 確かな手応えを感じたフレアは、ミリカの褒め言葉に嬉しそうに返事をする。


「よし! とりあえずフレっちのテストはこれで終わりだね。フレっち、とりあえず隣の部屋で待ってて!」


「あっ……! ありがとうございます!」


 隣の部屋で待機。それすなわち「入部テストに合格した」ということである。


 テストに合格できず脱落する同級生もいる中、フレアは見事合格を掴み取ったのだ。


(やった! 今日からリトルファイト部に入れるんだ!)


 上級生に認められた上に合格を得られたのは、フレアにとっても素直に喜ばしいこのようだ。


「ミリカ先輩! ありがとうございました!」


「いいよ〜。じゃ、また部活動でね〜」


「はいっ! 失礼しますっ!」


 フレアは元気よく返事をすると、上機嫌で教室から退出したのだった。


 一方、退出するフレアに手を振ったミリカは、すぐさま視線を逸らして手に持ったノートにフレアの評価を書き記した。


「えーっと、確かにバトルの腕はあるけど……一時の感情に振り回されるし、ゴブリンの知識は中途半端なのにわざわざリスク高い狩りをするし、そして詰めは甘いし……うん、あの子はダメかも」


『彼女は練習組で確定です』


「だね〜。勝負見たって言っただけで、こっちの話を勝手に推測して舞い上がるのも個人的に減点かな」


 自分のリトルナイトと話し合いをしていると、案内係の女子生徒が歩み寄って来た。


「あ、トコチじゃん。どした?」


「ライゴさん、先程テストをした方は……」


「一応合格だよ、練習組だけどね」


 ミリカ・ライゴはトコチと呼んだ眼鏡の女子生徒にノートを見せる。


「さっき別の部屋に待機させたとこ」


「……あの方に、例の話は持ちかけましたか?」


「いや、今じゃないでしょ。その話はもっと仲良くなってからで……」


「……話をつけてきます」


「えっ?」


「失礼します」


「ちょっ! 待って!」


 ミリカは慌てて女子生徒を止めようと動く。が、女子生徒はミリカに向かって指を突き立てた。


「…………」


『ミリカ!』


 ミリカはまるで時が止まったかのようにその場で停止した。ミリカのリトルナイトは、突然硬直した主人に驚き慌てている。


 その隙に女子生徒は入部テストの会場から退出。


「フレア・ゴーカイさん、お待ちください」


「えっ? 私ですか?」


「はい。私はトウコ・セセラギと申します。少しお話をさせていただきたいのですが、お時間よろしいでしょうか」


「あ、はい……」


「貴方にとっても悪い話ではないかと」


 女子生徒は部屋に移動中のフレアを呼び止め、その場で話を始めた。


「ゴーカイさん、貴方は無事にテストに受かりました。しかし、残念ながら練習組に割り振られてしまったようです」


「…………!」


 トウコの言葉に、フレアは目に見えて落胆する。

 当然だろう。1軍を目指して頑張ったにも関わらず、結果は振るわず2軍に落ち着いてしまったのだから。


「……しかし、場合によっては練習組からメインに入る道はあります」


「えっ? 本当ですか!?」


「本当です」


 フレアとゴウカが見つめる中、トウコは真剣な眼差しで交換条件を口にした。


「貴方はカエ・オームラさんはご存知ですか?」


「あっ、はい。友達です。その友達が何か……」


「カエさんをリトルファイト部に連れて来てください。彼女をリトルファイト部に勧誘成功したら、貴方をメインに昇進させましょう」


「は?」


『何だと……?』


 トウコの発言に、フレアとゴウカは途端に怒りを露わにする。


「……友達を売れってことですか」


「違います。これは交渉です」


 明らかに不機嫌な態度のフレアに、トウコは話を続ける。


「前に貴方とペアを組み、見事勝利を掴んだ初心者のリトルナイト使いに部長が興味を持ったのです」


「初心者にしては動きがいい。頭も良くて、強敵を前に臆せず、ペースを乱すことなく立ち向かうあの胆力……リトルファイト部には居ない人材です」


「もしゴーカイさんがオームラさんを連れて来れたら、我々リトルファイト部の戦力は上がり、貴方は念願だったメインに昇進できます」


 トウコは淡々と話を続けるが、依然としてフレアの表情は暗いままだ。


「お互いにとって利益になると思いますが……」


「……やめます」


「はい?」


「リトルファイト部に入るのやめます。さようなら」


『失礼します』


 フレアは怒気を含んだ物言いで一言告げると、踵を返してその場から立ち去った。


「勿体ないことを……」


「こらトコチ!」


 トウコが独り言を呟いたタイミングで、ミリカが慌ててトウコの元へと駆け寄ってきた。


「ちょっと! まさかとは思うけどフレっちに例の勧誘の話とか……」


「しました」


「やっぱりやってた! もう! 何してんの!」


 トウコの行動にミリカは怒り、防音魔法を周囲に展開しながらトウコに怒号を飛ばす。


「そういうのは仲良くなってからそれとなくって決めたじゃん! 何勝手に話持ちかけてんの!?」


「善は急げと言うでしょう」


「急いては事を仕損じるって知らないわけ!? マジ信じらんない!」


 こうしてフレアはリトルファイト部から脱退し、その足でリトルナイト倶楽部へと向かった。


 ……このトラブルを期に、カエ達の身の回りで様々なトラブルが発生することとなるのだった。

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