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21話 ゴーレム部での一悶着

 入学式が終わり、帰宅後……



「リトルナイト倶楽部?」


「うん。ハクギンさんがリトルナイト関連の緩い部活動を立ち上げるって言ってさ」


 夕飯時。自宅のリビングで家族と食卓を囲う私は、今日起きた出来事を両親に簡単に伝えた。


「だから私、ゴーレム部と合わせてリトルナイト倶楽部にも入ることにしたんだよ」


「いいじゃないか。リトルナイトで色々やる部活動かぁ、すごく楽しそうだ」


「リトルナイトの部活動あるの? 時代は変わったのね」


 両親は学園にリトルナイトの部活動があることに驚いている様子だ。正直言うと私も驚いている。


「いいなぁ。お父さんも学生だったらリトルファイト部に入ったのに」


『俺と相棒が入ってたらきっと大活躍だったな!』


「ジュウトが良くても、俺の腕があまり良くないからなぁ……」


 お父さんの食事の隣にいる、武士とバイクを掛け合わせたような見た目をしたリトルナイトのジュウトがノリノリで返事をする。


『そんな卑下するな! お前は強い! そんな弱気じゃ勝てる試合も勝てないぜ!』


「はは、だな」


 ジュウトはお父さんのリトルナイトだ。そんなジュウトはテーブルの上に胡座をかいて座り、目の前のお膳のような台に乗った小皿から握り飯を取っては頬張っている。


「……あれ? 家にこんなお膳みたいなのあったの?」

 

「お父さんがわざわざ買って来たのよ! カエが買って来たような洗いやすい食器ならいいけど……わざわざ手間のかかりそうな物買ってくるんだから!」


「でもジュウトにピッタリだろ?」


 どうやらお父さんもリトルナイト用のグッズを別で購入していたらしい。


「前にカエがリトルナイト専門店で色々買って来てたのを見て、お父さんもその専門店に興味が沸いたんだ」


「えっ? まさかお父さんもナイト工房行って来たの?」


「ああ、ジュウトと一緒にな。いざ行ってみたら、魅力的なグッズが豊富で……」


「分かる〜あそこいいよね〜」


 どうやらお父さんもナイト工房であの魅力的なグッズを目の当たりにしてきたらしい。


『僕も分かる、あのお店すごく楽しいよね』


 私の食事の隣に座るピントはお父さんの話に相槌を打ち、小皿からおにぎりやウインナーを掴んでは口に運んでいた。


「もう……グッズを買うのはいいけど、無駄遣いは禁止だからね! あと部屋を散らかさないこと!」


「「はーい」」


 お母さんの言葉にお父さんと口を揃えて返事をした。




 学園生活を始めて数日後、ついに部活動見学の日がやって来た。


 私はリトルナイト倶楽部とは別でゴーレム部にも入部する予定なので、ピントと共にゴーレム部の部室へと移動することにした。


 期待に胸を膨らませながらゴーレム部に足を運び、いざ見学しようとしたその矢先。


「ああ、君はゴーレム部には入れないよ」


「えっ」


 ゴーレム部の部員らしき上級生に呼び止められ、面と向かって入部拒否をされてしまった。


「だって君、リトルナイト連れてるじゃないか。リトルナイトを持ってる学生は今年度から入れないようにしたんだ」


 黒に近い灰色の髪を持つ男子学生は、私が入部できない理由を淡々と述べる。


「あの、何故リトルナイトを所持していたら入部できないんですか?」


「リトルナイトなんかいたら部活動に専念できないだろう? ここは真面目に部活動に取り組む生徒しか入れないようにしているんだ」


『カエはゴーレム大好きだよ』


「そうかい。僕には君がゴーレムに興味があるようには見えないけどね」


 男子学生は私を睨みつけながらそう言い放つ。

 私達の話し声に気が付いたのか、ゴーレム部の部室から部員らしき学生がゾロゾロ姿を表す。


「見た目で判断するんですか?」


「此処は真面目な部活動に取り組む学生しか入れないようにしてるんだ。どうせ君はどこか適当な部活動に入ろうとしただけの……」


刻石こくせき部長、何してるんですか」


 偏見を持つ男子生徒が更に言葉を続けようとしたその時。

 部室の奥から背の高い男子生徒が現れ、私に話をしていた男子生徒に声をかけた。


 黒髪をオールバックにしたガタイのいい男子生徒。私はこの上級生に見覚えがあった。


「あ、大地先輩!」


「オームラか、久しぶり」


 大地石斗だいちせきと先輩は、かつて私が在籍していた中学校にいた上級生であり、数少ない魔法使いの先輩の1人だった。


 魔法関連を扱う行事でよく顔を合わせ、後輩としてお世話になっていた。少し頭が固いところはあるものの、とても気のいい後輩思いの先輩だ。


「ん? 大地、お前はこの女子生徒と知り合いなのか?」


「中学の時の後輩だ。オームラ、何があった」


「ゴーレム部の見学をしようとしたら、この先輩に入部拒否されたんです。どうやらリトルナイトを所持していたことが原因らしくて……」


「…………」


 私が理由を説明すると大地先輩は口を固く閉ざしてしまった。

 眉間に皺が寄っているのを見るに、どうやら大地先輩は怒ってるようだ。


「おい、刻石……」


「ええっ!? マジ!?」


「ちょっと部長! 何であんな可愛い子を入部拒否するんですか!」


 大地先輩が刻石先輩に何か言おうとしたその瞬間、部室から部員が飛び出して口々に文句を言い始めた。


「リトルナイトを理由に入部拒否とか正気かよ!?」


「リトルナイトなら俺も持ってるのに!」


『ソウダソウダ! 貴様ハ『リトルナイト差別』スルノカ!?』


 部員数名とリトルナイト1名は必死になって刻石部長に詰め寄っている。


「はぁ……皆んな見てみろ、あの子がゴーレムに興味があるように見えるか?」


「興味がどうとか別にいいでしょうが! あの子は少しでもゴーレムに興味があるからこうして来てくれたんじゃないんですか!?」


「そもそもこの部で選り好みとかできる立場じゃないでしょうが!?」


「ダメだ。風紀を乱すような奴を入れて部活動をダメにされたらかなわん」


「ちょっと部長!」


「まだどんな性格かも分からない子を相手にその言い方はないでしょ!?」


 刻石部長の言い方があんまりだったのか、部員達の抗議が更に激しくなる。


「私が原因で揉めてる……」


『賑やかだね』


「うーん……部長に拒否されたのなら、ゴーレム部に入るのは無理そうだね。ピント、ハクギンさんのいる空き教室に行こっか」


『そうだね』


 これ以上この場にいても騒ぎが収まることは無さそうだ。争いの元になっている私がこの場に居続けるのも良くないだろう。

 ここは一言入れてこの場を立ち去った方がいいだろう。


「あの、私は此処で失礼します」


『お邪魔しました〜』


「2度と来るなよ」


「おい! 新入生を相手にそれは流石に無いだろ!」


 とりあえずこの場から立ち去ろうとするも、刻石先輩の放った一言が大地先輩を更に刺激した。


「大丈夫ですよ大地先輩、家でもゴーレムいじりはできますから……」


「だが、オームラがゴーレム部を出禁にされたら、ゴーレム作ってるオームラの祖父の面子が……!」


「大丈夫ですよ、お爺ちゃんならきっと笑って流しますから」


 大地先輩の一言に、刻石先輩の身体がピタリと止まる。


「えっ!? マジ!?」


「お爺さんゴーレム作ってんの!?」


 対してゴーレム部の部員達は表情を輝かせ、大慌てで私に駆け寄ってきた。


「君の祖父ってもしかしてゴーレム職人!?」


「あっ、はい。石坊主を専門に作ってます」


「まじかよ!」


「すげー! どんなの作ってんの!?」


「坊主合戦とか、観賞用石坊主とか、色々作ってますよ」


「おぉー!」


 お爺ちゃんの話を聞いたゴーレム部員は更に歓声を上げる。


「お爺ちゃんのおかげで昔からゴーレムが好きで……ですが、私のルール違反でゴーレム部に入れないので、残念ですが此処で失礼……」


「待ってください」


「はい?」


 刻石先輩に丁寧に呼ばれ、私は後方を振り向いた。


「刻石先輩……?」


 そこには、顔が真っ白になり大量の汗を流した刻石先輩の姿があった。この数秒で刻石先輩に何が起こったのだろう。


(……まさか、私のお爺ちゃん『大村岩次郎』が有名なゴーレム職人だとバレた? ……いや、いくらゴーレム好きでも、お爺ちゃんのことはあまり知らない若い子は多いし……)


 私はとりあえず刻石先輩に向かい合った。


「……あの、刻石先輩どうしたんですか?」


「出禁の件ですが、こちらで何とかさせていただいてもよろしいでしょうか? いや、元はと言えば僕が出禁にしたのですが、それを撤回するチャンスを頂ければと……」


 それにしても刻石先輩の様子がだいぶおかしい。周りのゴーレム部員も戸惑いながら刻石先輩を見つめている。


「いや、それ以前に……急にどうしたんですか? 顔真っ白ですよ?」


「いやーははは、僕は昔からインドア系でして……室内にいると白さが際立つんです」


 その青白さは確実にインドアから来るものではない。


「白を通り越して青くなってますよ……あと汗もすごいですよ」


「あーこれですか、僕は昔から汗を制御できまして……えっと、その機能が今しがた壊れました」


「本当に大丈夫ですか?」


 果たして刻石先輩の不調は体調不良の一言で表せる物なのだろうか。


『刻石先輩って人、さっきからなんかおかしいよ? 病院行く?』


「いえ、お気遣いなく……いやぁ、じつにお優しいリトルナイトですね。こんなリトルナイトならばゴーレム部にふさわしいでしょうね」


『え〜? 部活動に専念できないからリトルナイトは禁止じゃなかったの?』


「いえ、君のような素敵なリトルナイトが居たらむしろ部活動に専念できます。なので撤回します。むしろオームラさんは大歓迎として話を進めるとして……とりあえず部室を片付けてきます」


「あの……私の出禁はとりあえず解除されたって認識で合ってますか?」


「まさしくその通りでございます。いえ、最初から出禁なんて物騒なものは出すべきではありませんでしたね。はは…………あの、よく考えたら出禁なんて存在しなかったんです。はい」


「ええと……」


「あの、望むなら副部長の座をお渡しするので、ゴーレム部への入部をご検討いただけるでしょうか」


「入部してすぐに副部長はちょっと……」


「ですよね。突然お渡しされてもですよね。あの、オームラさんの入部は私共々、一同大歓迎ですので……」


 先程からへりくだりすぎである。初対面の時とは大違いだ。


「あのオームラさん、部員総出で部室を片付けてくるので、しばしお待ちいただけますでしょうか……?」


「あ、はい」


「ありがとうございます。大地、部室が片付けられるまでオームラさんをもてなしておいてくれ」


「あ、ああ……」


 態度が豹変した刻石先輩に、大地先輩は戸惑いながらも素直に従う。


「では失礼いたします。ゴーレム部員一同、新入生を丁寧に出迎える準備を開始する。俺についてこい」


「あ、はい……」


「うっす……」


 刻石先輩は私に深々と頭を下げると、戸惑うゴーレム部の部員を連れて部室へと戻っていった。


「……あの、大地先輩。あれは一体……」


「ああ、刻石はオームラの祖父である大村岩次郎のことをよく知っていてな」


 大地先輩は私に顔を向けて大まかな解説を始める。


「ゴーレム職人で有名な大村岩次郎を尊敬してたんだ。プロフィールや大まかな情報も雑誌で見て知ってるそうだ」


「へぇ……」


「だから、オームラという苗字で、祖父が石坊主を主に扱うゴーレム職人で……という具合で、刻石の頭の中で点と点が線で繋がって、結果としてあんな風になったんじゃないか?」


「なるほど……」


 つまり刻石先輩は、私の祖父がゴーレム職人として有名で、それでいて尊敬している大村岩次郎であると理解した結果、あのような態度に変わったらしい。

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