19話 魔法学園通学日
春休みが明け、ついに魔法学園に通う日がやってきた。
朝の身支度を整え、真新しい制服に着替えた私は学生鞄を肩に掛けて自室から出た。リビングに待機させていたピントを回収しに向かう。
「ピント、学校行くよ」
『はーい』
リビングの出入り口で声を掛けると、机の周りをグルグル走り回っていたピントは私に駆け寄って来た。
床に下ろした学生鞄を開けると、ピントは自ら学生鞄の中に潜り込んだ。学生鞄を閉じて持ち上げると、学生鞄の隙間からピントの頭が飛び出した。
『レッツゴー!』
「はいはい」
私は上機嫌なピントを連れてそのまま玄関へと向かう。
「あら、もう学校行くの?」
「うん、行ってきまーす」
『行ってきまーす』
「カエ、ピントちゃん、行ってらっしゃい。他のホウキに気をつけてね」
「はーい」
『気をつけるね〜』
お母さんに見送られながら家を出た私は、庭でホウキに乗って空へと浮かび上がり、魔法学園に向けて出発した。
『桜綺麗だね』
「そうだね」
地上にある桜並木は満開。春風に吹かれて花びらが舞い上がり、空を飛ぶ私達の元まで届いた。
「春だね……」
『うん。春だね』
時間には余裕があるので、私達は春の景色を楽しみながらのんびり空を進む。
『学校楽しみだね』
「そうだね。魔法学園だから魔法を使用する機会も増えるだろうし、魔法の勉強いっぱい頑張らないと」
『頑張れ〜』
因みに、リトルナイトとの登校は学園で認められている。
むしろ連れて行かなければ話題についていけない可能性もあるので、絶対にピントは連れて行くと心に決めていた。
『あ、カエと同じ服着て人いるよ』
「ホントだ」
しばらく空を飛んでいると、私と同じ制服を着た学生がホウキに乗って空を飛ぶ姿を見かけるようになった。私と同じ学園に通う生徒なのだろう。
よく見ると、生徒の鞄やホウキに座るリトルナイトの姿があった。
リトルナイトを所持している生徒は想像以上に多い。変にひねくれずにリトルナイトを迎え入れておいて良かった。
『ねえカエ。この学校はフレアも来るんだよね?』
「うん。でもフレアは私達の住む地域とは反対方向らしいから、フレアと会うのは学園に到着してからかな」
『そっか』
変に外で合流しようとして入れ違いになる可能性もある。なので当日は学園で落ち合おうと、メールのやり取りを通して決めたのだった。
「そうと決まれば、学園まで急ごっか」
『うん』
私達はホウキを飛ばして先を急ぐ。
「…………」
「…………」
妙な視線を感じる。というより、綺麗なホウキに乗った1人の女子生徒が私達にゆっくり接近して来る。
(黒の魔女帽子を被ってるということは、少なくとも魔法使いレベルは5以上……)
彼女は上レベルの証である魔女帽子を深く被っており、顔はよく見えない。
『なんか近付いて来てるね』
「気のせいじゃないかな……」
気のせいだと思いたかったが、女子生徒は一向に私達から離れる気配はない。女子生徒はゆっくりじわじわと近付いて来ている。
「……あれ? あの子ってまさか……!」
私はあの女子生徒に見覚えがあった。
私はすぐにホウキの進路を変え、謎の女子生徒へと接近する。
「あっ、やっぱり! ハクギンさんだ!」
謎の女子生徒の正体はなんとハクギンさんだった。
「エクスキューズミー」
この声掛けは間違いなくハクギンさんだ。
「おはよう! ハクギンさんも同じ学園だったんだ!」
「……私も驚いた」
ハクギンさんは緊張気味に口を開く。
「遠くでオームラさんを見つけて、折角だからオームラさんに声を掛けようとしたけど……どう声を掛けようか悩んでた」
どうやら接近したはいいものの、声掛けの言葉に悩んでいたらしい。
『オームラ様、ピント様、おはようございます』
少し離れたところから鳥が飛んできたかと思うと、魔術師の見た目をしたカラスのハクヤが現れた。
「ハクヤさんもおはよう!」
『ハクヤ、元気だった?』
『ええ、この通り』
合流したハクヤさんは、羽を畳んでハクギンさんのホウキに飛び移った。
「ハクギンさん、折角だから一緒に学園まで行こうよ」
「うん。よろしくお願いします」
「ねえ、早速だけどリトルナイトについて質問していい?」
「ノープロブレム」
初通学早々に知り合いと合流できた私は、2人並んで魔法学園へと飛んだのだった。
ホウキで空を飛ぶこと数分後。ふと気がつけば、私達はいつの間にか森の上を飛んでいた。
「ほんと不思議だよね。学園に向かって進もうと考えるだけで本当に学園に到着するなんて」
「この結界は特殊。どこから向かってもちゃんと学園に到着できるように出来てる」
「凄いなぁ……」
やけに静かな森の上をさらに進むと、やがて前方に開けた土地と大きな学園を発見した。
広すぎるグラウンドに、遊園地のジェットコースターのような施設と融合した学舎が見える。
「綺麗な学園だけど……なんか階数多くない?」
「この学園は8階まである」
「8階!?」
学園に通う魔法学生はそこそこいるが、学舎の大きさに対して魔法生徒の数が足りていないような気がする。
「見た目通り、空き教室は沢山あるらしいから部活動を作り放題。オームラさんは幾つ作る?」
「そんな部活動作る機会あるかなぁ……それにしてもハクギンさん、学校について色々と詳しいね」
「遠い親戚がこの学園に通ってるから、色々教えてもらった」
「へぇ……じゃあ、あのジェットコースターみたいな施設が何なのかも分かったりする?」
「あれはジェットコースター」
そのまんまだった。
「遠くの校舎に移動する為に一部の生徒が使用してるみたい」
(有名校とは聞いてたけど、なんだか変な学園だなぁ……)
「おーい!」
不思議な学園を上空から眺めていると、学園のある方角から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『あっ、フレアだ!』
目立つ赤髪を風で揺らしながら、ホウキに乗ってフレアが飛んできた。フレアは手を振りながら私達に近付いて来た。
ホウキの後方にはフレアの相棒であるゴウカの姿もあった。
どうやらフレアも通学途中のようで、上空で偶然鉢合わせしたようだ。
「フレアおはよ〜」
「グッモーニン」
『ゴーカイ様、おはようございます』
私とハクギンさんもフレアに手を振り返し、朝の挨拶をする。
「カエ、おはよう! ……って、隣にいるのはトール!? ハクヤもいる!」
「ゴーカイさん、おはようございます」
『主人がいるのなら私もいるのは当然でございます。居ないこともございます』
「どっちだよ」
上空で奇跡的に合流できた私達はこの後、3人と3体で仲良く学園へと移動した。
この後、入学式やその他諸々を無事に済ませ、私達は晴れて大空魔法学園の生徒となった。
「いやぁ、まさかトールも同じ学園だったとは……」
「私も驚き」
本日の行事を全て終えた後。広い廊下で合流した私達は、やけに広くて大きな学園内をゆっくり歩いて探索を開始した。
木造建ての校舎内はとても綺麗で、まるで文化遺産の寺院の中を歩いているような……とにかくそんな気分になっていた。
「フレアもトールも同じ学園の生徒として会えて、私としてはすごく嬉しいよ」
「私も。それにオームラさんとは同じクラスになれた、もっと嬉しい」
「いいな〜、カエとトールで同じクラスに入れるなんてさ」
私とハクギンさんのクラスは1年1組だった。残念ながらフレアは2組で別となってしまったが、こればかりは仕方がない。
『この学校、すごく広いね』
「そうだねピント。廊下も教室も綺麗だし天井も高いし……」
なんというか歴史的建築物の中を歩いている気持ちになる。
「この廊下なんか広すぎて、もはやホウキで飛べそうだもんな」
「フレア、飛んだらダメ」
「分かってるっての! トール、本気にすんなって!」
『いや、フレアならありうるな』
「こらゴウカ!」
皆んなで談笑しながら廊下を移動していく。
「あっ、みんな見て」
「ん? 見たところただの空き教室みたいだけど……」
「トール、ここには何かあるのか?」
「ここは空き教室、誰も使用してない」
「何でもない部屋ならわざわざ説明しなくていいって」
私達は更にぶらぶらと歩き続け、やがて1つの空き教室の前で停止した。
「ここは空き教室、誰も使用してない」
「その説明さっきもしてたな……にしても、空いてる教室多いな……」
「ここは昔、国内で魔法を使える子はみんなこの学校で教育してたんだって。遠い親戚のお姉さんから聞いた」
「そんな情報までわざわざ聞いたのか……へぇ、昔はみんなここで魔法の勉強をねぇ……」
「だから校舎が2つあるんだね」
肩にハクヤを乗せたハクギンさんは何もない広めの空き教室に入る。私とフレア、ピントとゴウカも後から空き教室に入室する。
「此処も広いな……」
大きな窓から明るい日差しが入り込む。明かりは無いのに広い室内はとても明るかった。
「なんか出来そうな教室だね」
「うん。私はこの空き教室で実際に何かするつもり」
そう言うとハクギンさんは私達に向き直った。
「私、この空き教室でリトルナイト関連の部活動を作る予定」
「「部活動……?」」
「うん。その名もリトルナイト倶楽部」
ハクギンさんは空き教室の中央に移動し、新たに作る予定である部活動についての説明を始めた。
「この倶楽部は文字通り、リトルナイト関連の部活動。リトルナイトで遊んだり、バトルしたり……つまり、リトルナイトで気軽に遊ぶ為の部活動」
「緩い集まりでリトルナイトを遊ぶ部活動なんだね」
『すごく楽しそうだね』
リトルナイト初心者でも気軽に入部できそうな素敵な部活動だ。
「緩く楽しい部活動にする予定。所で、話は変わりますが……」
「?」
「トール、どうした?」
「2人は入る部活動は決めた?」
(……もしかしてハクギンさん、私達をリトルナイト倶楽部に入部させようとしてる?)




