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14話 決着

 ウルフマンが逃げ込んだ森林へとやってきたピント。


『木がいっぱいあるね』


(気をつけて、手負いの相手は危ないから)


 ピントは耳を立てながら森林の前に立ち、用心深く辺りを見回す。


 リトルアイからは環境音のみ聞こえてくる。相手は身を潜めてこちらを伺っているようだ。


『……よし!』


 ピントは覚悟を決めた。



 ピントはすぐに森林から離れ、森林を目掛けて魔法弾を幾つも放った。



 ピントの魔法弾は火属性、高熱を持っているので乾燥した草木なら燃やせるだろう。

 だが目の前にあるのは生木なので燃えることはない。


『煙しか出ないね』


(それでいいよ。ウルフマンはビビリだから、その辺の木が倒れただけでも慌てて飛び出す筈。森林との距離に気をつけて魔法弾を放ち続けて!)


『はーい』


 放った魔法弾により木は燃えなかったが、木は幾つか倒れたようだ。ある程度木が倒れたところで、森林の奥から何かが慌ただしく駆け回る音が聞こえてきた。


『うぉえっ!?』


 やがてついに、ひどく慌てた様子のウルフマンが森林から飛び出した。


『何すんだクソボケェ!』


『罠だと分かって飛び込むわけないじゃん』


 ウルフマンは作戦通り、ピントの前に姿を現した。が……


『あれ? なんか背伸びた?』


『フフフ……』


 ウルフマンは先程とは姿を大きく変えていた。


 細身だった身体は倍近く膨張し、まるでボディビルダーのような姿へと変化していた。完全にパワータイプだ。


『何はともあれ、形勢逆転だな』


(身体が大きくなってる……)


 これは恐らく、魔金属液体に魔力を流すことで膨張する特性を利用したものなのだろう。


(ハクギンさんから、ウルフマンは大きくなってパワータイプに変わるとは聞いてたけど……こんなに大きくなるんだ)


『お前の仲間は倒れ、残ったのは素人1人……どうする? さっきみたいに避けてるだけじゃ勝てないぞ?』


(強そうだけど……全身の液体金属を膨張させる為に魔力を大量に使用している筈だから、追加で魔法使って速く動く真似はもうできない筈)


 膨張した魔金属は頑丈になり、魔力を含んだ分重くなる。しかし、膨張させるには多量の魔力を使用する。


 恐らく今のウルフマンは身体強化の類は使えない。パワーはあるが動きはだいぶ鈍くなると見て間違いないだろう。


(逆に1対1の状況は戦いやすい……その上に相手の動きが鈍くなったのなら尚更)


 坊主合戦で培った技術がリトルナイトに通じるのは実践で経験済み。


(冷静に相手の動きを見る……!)


 相手は経験者なので変わらず警戒は必要だ。


『ほら、攻撃してこいよ』


 相手は初心者であるピントを前に完全に油断している。

 ふざけてピントに向かって太い両腕を振り回す。時折本腰を入れて鋭い爪を振り下ろしたりと、本気の動きも交えてピントを警戒してくる。

 だが、ここではまだ手は出さない。相手のミスを誘発できる大きな動きが必要だ。


『……』


『……つまらない奴だな』


 いつまで経っても攻撃してこないピントにしびれを切らしたのか、ついにウルフマンが攻撃体制に入った。


『そんなに早く終わらせて欲しいのなら……! お望み通りにしてやるっ!』


 ウルフマンは両腕に力を込め、長く鋭い爪を剥き出しにした腕を構えながら全速力で突撃してきた。


(今だっ!)


 相手が駆け出したその瞬間。ピントは足に力を込め、ウルフマン目掛けて全力で飛んだ。


『うおっ!?』


 ピントの動きが想定外だったのか、ウルフマンは驚き攻撃がほんの少し遅れる。


 ピントはすぐさま身を屈めてスライディングの姿勢に入り、両腕が振り下ろされる前にウルフマンの懐に飛び込んだ。


『しまっ……!』


 ウルフマンの足元ですぐさま姿勢を整え、力を込めた片足で大地を全力で蹴り上げた。


『てやーっ!!』


『グゥッ!?』


 ピントの全力を込めた跳び膝蹴りは顎下に見事命中。凄まじい音を立て、ウルフマンの重い巨体は真上に少し飛び上がった。


 ウルフマンと共に飛び上がったピントは、足元に出した魔法陣を蹴ってウルフマンの喉元に蹴りを追加。


『グゥ……!』


 そしてピントはウルフマンの喉元に乗せた片足に全魔力を込め、トドメの全力蹴りを放った。


 ピントの脚からとんでもない音が鳴り響き、反動でウルフマンから大きく離れる。ピントの脚が頑丈ではなかったら、今頃ピントの脚も無事では済まなかっただろう。


『ギャオッ!?』


 至近距離から3連続で凄まじい蹴りを受けたウルフマンは仰向けに勢いよく倒れ、そのまま動かなくなった。


(ピント、まだ油断しないで!)


 ピントは倒れたウルフマンを相手に一応身構える。しかし、ウルフマンは一向に動く気配はない。


「終わったかな……」


[試合終了]


[勝者ゴウカ、ピント]


 やがてフィールド上に文字が浮かび、勝利したリトルナイトの名前が表示された。


『やった! 僕の勝ち!』


「勝てた……」


「カエとピント、よくやった!」


「オームラさん、ピントの動きは見事だった」


 フィールドが元のテーブルに戻り、フレアとハクギンさんはすぐさま私とピントを褒めてくれた。


「まさかあんなデカブツ相手に臆せず連撃かますなんてな!」


「あのウルフマン、ピントの前で散々動き回ってくれたからね」


「だな! にしても……あの黄髪の奴、トールの言う通りに最後の最後に油断しやがったな……」


 フレアに言われ、改めてハクギンさんの言葉を思い出す。


『(でも黄髪の人は多分、次で勝負が決まるという大事な局面で調子を崩す)』


 素人であるピントが残ったことで、ウルフマンは勝利を確信したらしい。


 その確信が慢心を生み、ウルフマンに好きを生み出した。


「負けた……!? 初心者の素人に負けた……!?」


「いや、あれはどう考えても素人の動きじゃなかったっすよ……」


 黄髪男子と黒髪男子は初心者に負けてへこんでいるようだ。とくに黄髪男子は大きなショックを受けているようだ。


「あの、対戦してくれてありがとうございました」


「くそっ……この僕に恥をかかせたな……!?」


「やめましょうよ。これ以上ここにいたところで恥をかき続けるだけっすよ……今日のところは帰りましょう……」


「お待ちください」


 リトルナイトを手にそそくさとその場から退散しようとした男子2名を、ハクギンさんが静かに止める。


「僕らになにか用かな……まさか、追い打ちとか下品な真似をするつもりでは……」


「いえ、お2人には少しお話が……」


「話……?」


 ハクギンさんが合図をすると、ハクギンさんの背後から警備員と思われる屈強な魔女が2人現れた。

 

「ひっ!」


「な、何を……!?」


「詳しい話は別室で……」


 警備員らしき魔女2人は男子2名を何処かへと連行されていった。


『連れてかれちゃった』


「あの2人、前から初心者狩りなどの地味な迷惑行為を働いてたみたい。だから厳重注意」


 魔女に連れ去られる男子2人を見送るピントに、ハクギンさんは分かりやすく説明をする。


「あとフレア・ゴーカイさん」


「えっ、私?」


 ハクギンさんは次にフレアさんに顔を向けた。


「……って、そうか。ゴウカの回復しないとね」


「公共の場で大声で叫んで、更に喧嘩にオームラさんを巻き込んだから……厳重注意」


「あっ……」


 新たに現れた警備員らしき魔女にフレアも連れてかれた。


「さてと……」


 ハクギンさんは私にも顔を向けた。この流れから察するに、次は私が連れてかれる番か。


「初心者でありながら素晴らしいバトルを見せてくれたカエ・オームラさんにお礼がしたい」


「お礼?」


「貸したリトルアイをそのままオームラさんにあげます」

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