11話 試合開始
個室でリトルファイトの練習を終え、ついに午後2時の待ち合わせ時間となった。
「フィールドすっごく大きい……」
「リトルナイトを遊ばせる為のテーブルだからね。これくらい大きくないと」
2階のバトルエリアへと移動すると、わかりやすい位置に例の初心者狩り男子2名の姿があった。
「おや、逃げなかったんですね。この場に来れたその無謀な勇気をとりあえず褒めてあげますよ」
「ありがとうございます」
「…………」
言い方はアレだが黄髪の男子に褒められたのでお礼を述べる。フレアは表情を歪めてはいるが、我慢して無言を貫いている。
「では、早速始めましょうか。ご安心ください、すぐに終わらせますから」
「……っ!」
どうやら黄髪男子は、フレアを激怒させて冷静さを失わせる作戦に出ている様子だ。これは賢い。
「減らず口を……」
実際、フレアには効果抜群の様子。やり口は決して綺麗ではないが、勝負に勝つ為なら出来る限りのことはするその心意気は評価したい。
せめて人に憎まれない行為だけにしてほしいところだ。
「フレア、落ち着いて。フレアがしっかりしてくれないと勝てる勝負も勝てなくなるよ」
「そ、それもそうだな……カエ、悪いな」
フレアの口調は乱暴なままだが、とりあえず怒りは収めてくれたようだ。
「フィールド展開、場所はランダムで宜しいですね?」
「いや、素人に聞いたって分かりませんよ!」
「それもそうか、ははっ!」
男子2人は初心者である私も煽ろうとしているようだ。健気。
「おい……」
「いや、フィールドについては友達から聞いたよ」
とりあえずこれ以上フレアにストレスを与えないよう、ここは私が前に出て話をした方がいいだろう。
「フィールドバトルはフィールドに生成される生成物も影響を及ぼすバトルってことだよね?」
フィールドバトルは文字通り、フィールドに発生した物体も利用できるルールのバトルだ。
草原フィールドなら草木に隠れたり、その辺に落ちている石を投げて使用できる。
「合ってますよ。まあ、それくらい知らなくては……」
「よし、フィールドを選んだら次は私のリトルナイトをスタンバイさせるね」
「よし、私もゴウカをスタンバイさせるよ」
『行ってきまーす』
『全て潰す』
私とフレアは速やかにテーブルの端に移動し、スタンバイエリアと呼ばれる光るサークルにピントを置いた。
「……では僕らもスタンバイしましょうか」
「そうだな」
相手は煽りを止め、スタンバイエリアへと移動して自身のリトルナイトをスタンバイさせた。
相手がスタンバイした途端、男子2名の声が一切聞こえなくなった。
「ここからは仲間同士の会話のみ聞こえるようになるんだ。試合終了までアイツらの声は聞こえない」
「良かった……」
このまま煽られ続けたらフレアが爆発していたかもしれないので、このシステムは非常に助かる。
『フィールドが決まりました。バトルを開始します』
テーブルからアナウンスが鳴り、ピントとゴウカが乗るフィールドが輝きだす。
私とフレアはリトルアイを起動させて準備に入る。いよいよリトルファイトが始まる。
『5、4、3、2、1、スタート!』
スタートの合図と共にフィールドが一瞬で変化した。
「さて、フィールドは……朝の草原かな?」
青い空に白い雲、広大な土地に広がる草原。所々に木が生え、遠くには池が見える。
(草原ならピントに有利らしいけど、相手リトルナイト2体も獣人だから向こうも草原が有利らしい……)
索敵能力は高いらしいので、少しでも動けば私達の位置はすぐに把握されるだろう。
『ピント、作戦通りに行くぞ』
『分かった!』
ゴウカの言葉にピントは頷き、共に草原を駆け出した。リトルナイト同士の相性は悪くなさそうだ。
(相性が悪すぎると、その場で仲間割れするらしいからなぁ……)
リトルナイトはある意味では生き物に近いと雑誌に載っていた。リトルナイトでチームを組む際は、リトルナイト自身の性格や交流関係も考慮した方がいいのだろう。
『ゴウカより僕の方が脚速い〜』
『こら、俺から離れるんじゃない』
走りやすいフィールドに出たピントは、ゴウカより速度を上げて先へと進もうとする。
ゴウカと少し距離が離れ、ゴウカはすぐさまピントを咎める。
『戦うなら2対2だと教えた筈だ。そんなに離れたら……』
『今だっ!』
突然、遠くに生えている茂みから掛け声が飛び出し、続いてゴウカの周囲に半球状のバリアのような物体が出現した。
『しまった!』
リトルナイト1体分の狭いバリアに閉じ込められたゴウカ。内側から拳で何度も殴りつけるが、バリアは頑丈で壊れる気配はない。
本来は防御する為の壁なのだろうが、今回は相手を閉じ込める為の牢屋として使用したようだ。
『ゴウカ! 大丈夫!?』
『そらっ!』
『うわっ!?』
閉じ込められたゴウカを助けようと駆け寄るピントの真横から、魔法による斬撃が飛んできた。
斬撃が飛んできた方角には、イタチ獣人型のリトルナイト『バケイタチ』が身構えているのが見えた。
『まだまだぁ!』
バケイタチは両手の鎌を素早く振り回して魔法斬撃を幾つも飛ばしてくる。
ピントはすんでのところで避けるが、避ける過程でゴウカからだいぶ離れてしまった。
『よっしゃ! 分断成功っす!』
『フフ、実に初心者らしい動きだなぁ……!』
ピントが1人きりになったところで、痩せたオオカミ獣人型リトルナイト『ウルフマン』が姿を現した。
両手には小型銃を握っており、銃口をピントに向けていた。
『2対1ならこっちが有利っす!』
『くたばれっ!』
『わわっ!』
バケイタチとウルフマンは両手の武器を振り回し、魔法弾と魔法斬撃をピントに浴びせる。
『危ないっ!』
ピントは自慢の脚で爆走し、弾幕の雨を全力で避けてその場から逃げ出した。
(予想通り、初心者を相手に2対1で仕掛けてきた……)
初心者を相手に戦いを挑むような人は当然、真っ先に初心者を潰しに2体で勝負を挑んで来るだろうと既に予想していた。
1時間前……
個室でトレーニングを開始した時のこと。
『対戦相手をこの場に再現し、シミュレーションすることも可能です』
「そんなことができるんだ。じゃあ、再現した相手でやって欲しいことがあるんだけど……」
個室で私が提案した内容はずばり、リトルナイト2体を相手にしたトレーニングだった。
「相手は初心者の私を真っ先に潰しに来ると思うんだよね。で、私は初心者だから相手がどう立ち回るのか完全には分からないから……」
「このトレーニングで相手の隙を探し出して、カウンターするつもりか?」
「いや、反撃せず避けに徹するよ」
「えっ?」
私の発言にフレアは意外そうな反応をする。
「攻撃しないのか?」
「私は初心者だから、経験者を相手にするのは危険かなって。それに、2人仲良く攻撃してくるのなら、お互いの隙を埋めるように立ち回ると思って……」
「いや、あの2人がそんな賢い立ち回りするか……?」
「ゴーカイさん、相手を軽んじてはダメ。その油断が隙を生む」
「うっ……その通りだな、気をつける」
ハクギンさんに咎められ、フレアは反省の色を見せる。
「とにかく、ピントはとにかく避けに徹して、攻撃をフレアのゴウカに任せようと思うんだけど……」
「分かった。じゃあ相手のリトルナイトを再現して、全力でピントを攻撃させる」
「ハクギンさん、ありがとう!」
こうして、再現した敵リトルナイトを相手に特訓を開始した。
「片方はウルフマン。スピードタイプの時はきっと魔導銃ゴブリンを使用する。小型で扱いやすいけれど威力重視だから連射はできない」
「もう片方はカマイタチ。こっちもスピードタイプで、腕に装着された収納式の鎌を使った攻撃がメイン。近距離攻撃は素早い斬撃、遠距離攻撃は魔法斬撃を飛ばして攻撃できる」
「どちらもスピードタイプなんだ」
「特にカマイタチの方は尻尾の大鎌を取ってたから、更に身軽になってる」
ハクギンさんは再現した相手リトルナイトをフィールドに置く。
「距離を縮められたら避けきれない攻撃を浴びせられて終わる。だからピントの脚で遠くへ逃げて躱すのが一番」
ハクギンさんは早速、訓練用リトルナイトを起動させ特訓を開始。
「避けに徹するだけ」とは言ったが、相手はゴーレム以上の動きを見せるリトルナイト。先程戦った練習用リトルナイトより素早く、より複雑な動きをするだろう。
「では、スタート」
ハクギンさんはリトルナイトを起動させた。予想通り、相手は複雑に動く上に攻撃は非常に厳しく、開始して間もなくピントは攻撃を幾つも受けた。
『うわわっ!』
「ピント!」
練習用といえども、そこそこ威力のある弾と斬撃を貰いバランスを崩すピント。
しかしその後は、脚に力を込めた大ジャンプでなんとか相手から逃げつつ攻撃を避け続けた。
「ギリギリだったけど、遠く離れれば避けられるみたい」
「上手い上手い、いい感じだ」
「それがいいと思う。相手の脚力よりも、魔力を込めたピントの脚の方が速い。攻撃圏外に逃げ込む方が得」
しばらく避ける特訓をした後、ハクギンさんは一旦練習用リトルナイトを停止させた。
そしてピントをフィールドから回収し、透明な水槽のような物に入れる。
『ここ何?』
「リトルナイトの傷治すとこ」
大した攻撃ではないそうだが、それでもバランスを崩すほどの衝撃を受けたので回復はした方がいいだろう。
「ピントの脚は頑丈だから、片足に大量の魔力を突っ込んで走ることも可能」
とりあえず今回のピントの動きは決まった。相手の攻撃を避けられるようにするために、ピントと一緒に時間ギリギリまで攻撃を避ける練習をしたのだった。
(とりあえず、今は自分の出来ることをするだけ!)
リトルナイト2体に追われるピントは、広いフィールドをひたすら駆け抜ける。逃げる為ではなく、勝利を掴む為に。




