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バーテンダー雅子は元SM嬢  作者: 長澤 みなも
5/7

ダブル不倫(前半)

 夕方、日が暮れきった頃、雅子が店の外で看板をつけていると、中年の男が声をかけてきた。

 「あれ、もうやってる?」

 「あ、こんばんは!今、丁度開けた所です。どーぞ!」

 珍しく開店と同時に来店した中年の男が階段を降り席に着く。

 「お久しぶりですね。マッカランですか?」

 「うん。ロックで。」

 カランカラン。早い時間には珍しく、また扉が開く音が鳴る。

 コツ。。コツ。。。と高いヒールでゆっくりと階段を降りる音が聞こえる。

 「こんばんは!どうぞ。」

 雅子が笑顔で迎えると、カウンターに座っていた男が嬉しそうに手を振る。

 「こっちこっち、早かったね。」

 しっかりメイクに、しっかり香水の香りを漂わせた、かなり美人な中年の女が男の横に座る。

 「最近付き合い始めたの。たまに来るから、宜しくね。」

 男が女の肩を抱きながら紹介すると、女も嬉しそうにはにかみ、会釈する。

 「彼女には、呑みやすいフルーツのカクテルでも作ってあげて。」

 「かしこまりました。」

 雅子は冷蔵庫から桃を取り出し、カクテルを作り出す。

 「実はさ、最近探偵につけられてるのよ。」

 男が切り出す。

 「えぇ?そんな事、現実にあるんですか?」

 雅子はびっくりしながら、桃のカクテルを女性に差し出す。

 「嫁が雇ったみたい。」

 「最近、家の前に普段見かけない、街に馴染まない若い男女が立ってるなぁ。。。って思ってたんだけどさ、オフィスの近くでもそいつらを見かけたのよ!」

 「なーんか気になって、知り合いの探偵に相談したら、それ、探偵ですよ。って言われて。」

 「えー。。。本当にあるもんなんですね。今日は大丈夫なんですか??」

 唖然とする雅子。 

 「うん。多分ね。だからちょっと時間ずらしてここで合流したの。」

 男には別居中の奥さんと娘がいる。完全に夫婦関係は破綻しているが、財産の事で折り合いがつかず、ここ数年膠着状態のようだ。

 奥さんが少しでも有利に話が進むように、夫に女がいる証拠を集めているらしい。

 「会う時は時間ずらすし、マンションは違う出入り口使うようにしてんのよ。この前、旅行に行った時なんて、アムステルダムに現地集合だったよね。」

 男が女の手をさすりながら笑うと、女も男の腕に顔を寄せ物欲しそうに、男を見つめる。

 雅子の心配をよそに、中年の不倫カップルはそのスリルさえも、おかずにして楽しんでいるようだ。

 雅子は二人の様子を察し、すっと気配を消してグラスを磨く。

 「今日は何時まで大丈夫なの?」

 男が甘い声で女に尋ねる。

 「今日は旦那帰るの遅いから、部屋行けるよ。」

 女は男の指に口をつけ、潤んだ瞳で男を見つめる。

 「息子は?」

 「ご飯作って来たから、平気。」

 雅子はグラスを磨きながら、ダブル不倫か。。。と聞き耳を立てる。

 実は雅子のBARでは、何故かダブル不倫カップルが多いのだ。

 「じゃ、行こうか。先に裏口から入ってて。」

 男は女の額に口をつけると、女は先に階段を登り店を出ていく。

 「お会計お願い。」

 「ありがとうございます。またお待ちしてます。」

 男が会計を済まし、時間差で店を後にする。

 誰もいなくなった店で股がキュンとなる雅子。

 妻として、母親として、忙しなく過ぎる中で、世間にも旦那にも女として扱われなくなり、欲を隠して過ごしていた中年の女が、一気に雌の本能を曝け出す瞬間のsexは、堪らなく気持ちいいのであろう。と妄想を膨らませる。

 思わず、スカートの裾を捲り上げ、太ももから手を伸ばし下着の中に手を入れようとした所で、カランカラン。扉を開く音がなる。サッとスカートの乱れを直す雅子。

 「こんばんは。一人で来ちゃいました。良いですか?」

 階段から、先ほどの女とは違う中年の女が顔を覗かせる。

 「もちろんです!どうぞ。お一人は珍しいですね。待ち合わせですか?」

 こちらもしっかり化粧にしっかり香水、美人とまでは言い難いが、気合いを入れて綺麗にしているのは伝わる。

 いつも来る、大工の男の愛人だ。

 「いえ。。。今日は一人で。実は雅子さんにお願いがあって来たんです。。。」

 「えー。なんですか?お酒は、山崎で良いですか?」

 「はい。ソーダ割りでお願いします。」

 「あの。。。実は私、家出して来ちゃったんです。」

 「え?旦那さんと喧嘩しちゃったんですか?」

 なんと、こちらのカップルもダブル不倫なのだ。

 「はい。。。ちょっと嫌になっちゃって。実は3日前から彼の家に泊まってるんです。」

 大工の男の奥さんと子供達は海外に留学中で、急に帰って来る事も絶対に無い。確かに泊まる事も可能だ。

 「そうだったんですか。。。お願いって何ですか?お役に立つ事ありますかね?」

 山崎ソーダ割りを差し出しながら尋ねる。

 「実は、GPSで旦那は私がどこにいるのか把握してるんです。」

 「ええ!それ、ヤバく無いですか?」

 「それで、ここのBARに泊めてもらってるって言っちゃったんです。」

 「えぇ。。。」

 流石の雅子も薄ら笑いすら出て来ない。

 実は大工の男の家はこのBARがあるビルの目の前にあり、GPSで見たら誤差の範囲内ではある。

 「勝手にごめんなさい。ただ、旦那が店に来る事は絶対に無いので。。。」

 「え。。。3日も家にいないのに、旦那さんが迎えに来るとか、乗り込んで来るとか無いんですか?」

 「うちの旦那、一人じゃ何も出来ない人なんです。それが嫌になって家出しちゃったんですけどね。。。」

 「そうですか。。。」

 勝手に店を巻き込まれてモヤッとする所はありつつも、旦那さんの行動力の無さにびっくりする雅子。

 奥様が3日も家に帰らないのに、何もせず家で待っているだけとは。。。だから浮気されてしまうのか。。。

 なんにせよ、この女は旦那の事を心底、舐めているのは確かである。

 「実は私、子供が欲しくて。。。妊活を本格的に始めたいって旦那に言ったんです。」

 女は40代前半。妊娠、出産経験は無い。妊娠を望むのなら本気で取り組む必要がある。

 「旦那も子供を望んでいるんです。なのに、なんにも始めようとしなくて。。。私イライラしてしまって。。。」

 「この歳になるまで、子供欲しいって思って無かったんですけど、最近無性に子供が欲しくて、堪らなくて。。。」

 「あ。。。それ凄い分かる。。。」

 雅子にも思い当たる節がある。

 「私も、子供は絶対に欲しく無いんです。親になるのが嫌で、絶対に欲しく無いのに。。。子宮が妊娠しろって訴えて来るんです。。。若い時は、こんな感情無かったんですけど、sexの時、子宮に精子が欲しくて欲しくて堪らなくなっちゃうんです!」

 思わず熱くなる雅子。 

 「分かるーー!!」

 女も思わず叫ぶ。

 アラフォー女あるあるのようだ。自分だけじゃ無いと知り、少し嬉しくなる雅子。

 「この子宮から訴えかける感情と、旦那のやる気の無さのギャップに耐えきれ無くて。。。」

 「あー。。。それはちょっと気持ち分かるかも。。。男性ってそういう時、協力的じゃ無い人多いって聞きますよね。。。」

 「じゃあ、しばらく帰らない予定ですか?」

 「うーん、そろそろ帰らないとね。。。もう一回、ちゃんと話さないとダメかなって思うし。。。」

 「確かに、話し合いはした方が良いですよね。」

 カランカラン。タンタンタン。。。この階段を降りる音は大工の男だ。

 「やっぱりここにいた。」

 大工の男は少し機嫌が悪そうに、女の横に座る。

 「別に来なくても良かったのに。。。女子トークしたかったのに。」

 女も機嫌悪そうに返す。

 「二人ともそんなイライラしないで。」

 雅子は瞬時に状況を察する。

 どうやら大工の男とも喧嘩になり、旦那の所に帰ろうと思いながらも、男に追って来て欲しくて、男の家の前にあるBARで待っていたのだろう。

 「ジャックのソーダ割りで。」

 「かしこまりました。」

 サッと酒を作り差し出すと、気配を消してグラスを拭き始める雅子。

 雅子の視界に、二人が入らなくなると、男は女の髪を撫で、顔を強引に引き寄せ、キスをする。

 「もう。。。ふふっふふふっ」

 女の嬉しそうな声が漏れ聞こえる。

 雅子は背中で、乳クリ合う二人を感じ、アホらしくなる。

 次第に、クチュクチュと音を立て、下品に舌を絡ませている音が聞こえて来る。

 「ちょっとぉ、もうダメェ。。。」

 息を切らしらがら女が吐息を漏らす。

 「部屋に戻ろっか。」

 男が女の太ももを摩りながら囁く。

 「雅子、会計で。」

 「はい。ありがとうございます。」

 「雅子ちゃん、迷惑かけてごめんなさい。これ、良かったら食べて下さい。」

 女がバックから東北名産菓子を取り出し、雅子に差し出す。

 「ありがとうございます。気にせず、また来て下さいね。」

 薄ら笑いで二人を見送る雅子。


 客がいなくなり静かな店内、スマホの連絡先を見ながら、今日暇そうな男を探す雅子。

 (今日、店来ない?)

 雅子がLINEを送ると、直ぐに既読がつく。

 (オケー。)

 絵文字も無く短い文章が返って来た。

 「はぁ。。。」

 スマホをテーブルに置き、深くため息をつく。

 

 

後編に続きます。

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