雅子(みやこ)の日常
東京都港区、ギラギラした賑やかな街並みからタクシーで10分。
タワマンが建ち並ぶ洗練された住宅街の路地裏に入ると、街のイメージに似つかわしく無い、町工場時代の名残を残した、古びたビルが申し訳無さそうに建っている。
その一階、ワンルームの部屋の窓から中年の男女の声が漏れ聞こえる。
「あ。。。ちょっ。。。や。。そんな急に入れても。。入らないよぉ。。。あぁっ。。い。。痛いよ。。。」
うつ伏せに寝る女の膣口に強引にイチモツを押し当てる男。
「大丈夫、大丈夫。ほら。。もう濡れて来た。雅子はエロいな。」
男は女の尻肉を強引に鷲掴み、イチモツをグッと中に押し込み、抜き差しする。
「そんな事ないのに。。。あぁっ。。んぁっ。。あっ。。」
「ねぇ。。下着脱がせてぇ。。汚れちゃう。。。あぁっつ。。あっ。。。。そんなに動かしたら。。。ぃやっ。。あっ。。」
女の膣口から漏れた愛液が、グチュグチュと音を立て下着を濡らし、白い太ももに垂れている。
「凄いキツイ。。あ。もう出そう。。。ぅ。。。」
男はイチモツをグッと勢いよく1番奥まで差し込む。
「や。。まって。。。中に出さないでぇ。。。やぁあ。。あっう。。あぁっ!!」
枕をギュッと握り、腰をのけ反り、足をガクガクと震わせる女。
「ほら、雅子、綺麗にして。」
膣肉の奥で射精し、精液と女の愛液でベトベトになったイチモツを女の口元に押し当てる。
「ぅう。。いや。。んぐっつ。。ん。。ぐじゅ。。じゅぱっ。。。んんっつ。。ちゅぽっ。。。。。んあっ。」
女は、白くドロドロとした男の精液を股から垂らしながら、自分の愛液と精液が混ざり合った、何とも言えない匂いを漂わせるイチモツをいやらしく音を立てながら咥え込み、舐め回す。
「うわ。上も下もグチャグチャ。雅子は犯されるの好きな。」
「そんな事ないのに。。。」
雄と雌のいやらしい匂いの立ち込める、この物語の主人公、雅子の部屋。
男はベットに横たわり、煙草に火をつけ、テレビのリモコンを押す。
「本日未明、人気タレントの西嶋 類さん(28)が、自宅のクローゼットで亡くなっているのを、所属事務所社員が発見しました。西嶋さんは現在、レギュラー番組9本、CM5本を抱えており、今秋の連続ドラマの主演に決定したことが発表されたばかりでした。」
夕方のニュース。人気アナウンサーの震えた声が聞こえて来る。テレビは朝からずっとこのニュースばかりで持ちきりだ。
「なんでこんなに順調なのに自殺なんてするんだろ。。。理解出来ないな。。。」
男はだるそうに、裸でベットに寝転び、煙草を片手に呟く。
「命の重さは人それぞれだから。どんなに仕事が充実しているように見えても、ふとした瞬間に死にたくなる事もあるんじゃないかな。」
自分の愛液と精液でベトベトになった股と、太ももをティッシュで拭きながら雅子は言った。
「死ぬなんて絶対ダメだろー。家族だって、ファンだっているのに。」
男が強く返す。
「そうだよね。」
雅子は薄ら笑った。思ってもない事を言う時の癖。つい笑顔を作ってしまう。
「じゃ、また来週来るね。」
男はTシャツにスエットを着て、名残惜しむ事もなく、あっけなく部屋を出て行った。
「最近はセックスの時すらキスしてくれなくなったな。。。」
古びた洗面台、水垢の目立つ鏡を見ながらポツリと呟く。
顔を洗い、身支度を整え、雅子も部屋を出る。
雅子の部屋の横にある階段を下っていくと、そこには各国のウイスキー、リキュール類がずらりと並び、一枚板のカウンター。
いわゆるオーセンティックなBARがある。
雅子はそのBARの店主である。
モップで床を磨き、テーブルを拭く。トイレの掃除を済ませたら、看板に電気をつけ、音楽をかけ、客を待つ。
港区とはいえ、飲食店は高級料亭、鮨屋が数軒ある程度の住宅街の路地裏だ。毎日満員御礼とはいかない。
客を待つ間、暇を持て余す。
暇を潰せるようにカウンター内に設置した、小さなテレビ。音量を極小にして流し見る。
「本日未明、人気タレントの西嶋 類さん(28)が、自宅のクローゼットで亡くなっているのを、所属事務所社員が発見しました。西嶋さんと親交の深いタレントの皆さんからコメントが届いています。」
「余りに突然の事で、受け入れられません。何故。。。もっと早く苦しみに気がついてあげられていれば。。。」
「バカやろう!!あいつはバカ野郎だよ。。。」
「前回お会いした時は、笑顔でこんな仕事がしたい、もっと演技の勉強がしたいって。。。言っていたのに。。。本当に信じられません。。。」
「はぁ。。。」
雅子は、テレビを見ながら深くため息をつく。
この手のニュースが出た時、悲しみ、疑問、憤りの声はあるが、本人の選択に寄り添い、理解を示す意見は無い。
命は大切なもの。もちろん解っている。
ただ、無責任に“命は大切に““親不幸““相談して“なんて腹が立つ。
生きて行くのは自分なのだ。例え家族であっても身代わりになる事は出来ない。
親であっても親友であっても、人が死ぬまで手厚く面倒を見てくれる訳じゃ無い。
それならその命をどうしようと、本人の自由で良いじゃ無いか。
“親からもらった大切な命“なんて。。。勝手にセックスして、親の都合で勝手に産んだだけのくせに。
雅子の誰にも言えない憤りが、客のいない、薄暗い店内に響きわたる。
特に生理前は、暇を持て余すとつい考えてしまう。
この人生をなるべく早く、穏便に終わらせる方法はないかと。
いくら考えても無いのだ。誰にも迷惑をかけずに死ぬなんて。
家族と疎遠でも、毎週部屋に来る男に奥さんがいても、一人で出来る仕事を選んでも、突然死ねば、誰かの手を煩わせる事になる。
だからまだ死ねない。そんな言い訳をしないと生きる理由が思い当たらない。
なんでも無いのに涙が出て来る。
悶々と穏便に死ぬ方法を妄想していると、もう夜の21時。近所の飲食店で食事を終えた人達が、二軒目を探してボチボチ来店する時間だ。
テレビを消して、客を待つ。
カランカラン。店の扉を開ける音と共に、ダッダッダッダダン。。。軽快に階段を降りる音がなる。
「こんばんは。」
満面の笑みを浮かべ階段下で迎える雅子。
「うっすー。」
躊躇なくカウンター真ん中に陣取る。近所に住む大工の男。
「生ビールで良いですか。」
「うん。暑くなって来たね〜!」
薄張りグラスに注がれた、よーく冷えたブルックリンラガー・サマーエールをグビグビと呑み干す。
「おかわり!」
「かしこまりました。」
お通しの柿の種と灰皿を差し出す。
大工の男は、いつも気の利いた柄のシャツに短パン、サンダルにお洒落なハット。歳の割にシュッとして背も高い。話もカラっとして楽しく、イケおじだ。
「奥様とお子さん、もうシンガポールに行かれたんですか?」
「昨日行っちゃった。寂しいよなぁ。。。」
大工の男には奥さんと、小学生の子供が二人いる。半年前に奥さんが突然、子供を連れてシンガポールに移住する計画を打ち明けたそう。公立小学校に通っていた子供達が、学校に馴染めず、日本の教育に限界を感じたという。若いうちから視野を広く持てるようになって欲しいと、思い切った決断をした。
「実際には俺と離れたかったのかな。。。」
大工の男が寂しく呟く。
「離婚した訳じゃ無いじゃないですか。あくまでも子供の為の一時的なものでしょう?」
雅子が笑顔で返す。
「それだけじゃ無いだろうな〜。」
「夜遊びがバレちゃったんですか?」
「絶対バレて無い!バレて無ければ無かったのと一緒だからね!」
「そうですか。。。奥様とはちゃんとセックスしてました?」
「いやぁ、嫁とのセックスは近親相姦だから。」
「え〜。そんなもんですかねぇ?」
雅子は薄ら笑いを浮かべる。
嫁とのセックスが近親相姦なら、浮気や離婚をしない限り一生セックスしない事になる。
そんなバカな。
男が夜遅くまで飲み歩き、界隈の女との情事を楽しんでいる間も、仕事、家事、育児をワンオペでこなす奥様が浮気をしている可能性は低い。
その上、女として扱われなくなる。
そんな理不尽に、奥様が気がついていないとでも?
目の前にいる愚かな男の心の奥に埋まっている、男尊女卑の種に腹が立つ。
海外に移住し、専業主婦になった奥様が、子供が学校に行っている間に海外イケメンとのセックス三昧を楽しんでいると、信じたい。
「おかわりは、ジャックダニエルのソーダ割で宜しいですか?」
満面の笑みを浮かべる雅子。
「そんな事よりさ!いつセックスする?」
大工の男が煙草をふかしながら言う。
「奥様が遠くにいるからって〜。私、自分の事好きな人としかセックスしないって言ったじゃないですか。」
雅子はソーダ割を差し出しながら笑顔で返す。
「好き好き、俺、雅子の事本気で好きだもん!」
「え〜。本当ですかぁ。嬉しいですけどね〜。」
薄ら笑いの雅子。
この世で1番価値のない“好き“。このタイプの男の“好き“はペラッペラな用紙を何枚もコピーした量産タイプ。
雅子が最もイラッとする“好き“だ。
「もしセックスしたら、どんなセックスで楽しませてくれるんですか?」
雅子は挑発的な笑みを浮かべながら聞いた。
「え。。うーん。俺、性癖普通だからな〜。」
「雅子はどんなセックスが好きなの?」
大工の男がソーダ割をぐいっと喉に押し込む。
「私、実はセックスで満足した事ないんです。。。今まで私の性癖に合う男性と出会った事がないんです。」
「じゃあ、俺とやってみたら合うかも知れないじゃん!リクエストしてくれれば頑張るし!」
「やってみないと解らないですもんね。」
薄ら笑いで返す雅子。
リクエストしてやってもらうのは違う。相手が望み、相手の欲が曝け出された時に、最も興奮するもの。
雅子にとってセックスは、男を満足させる為の行為。あくまで相手がどう思っているのかが、重要なのだ。
男の性癖を全て満たしつつ、自分の性癖と一致していないと意味が無い。そして愛し合っている事。
全てを満たす相手に出会った事は37年間一度も無い。
もう24時30分。
「もう一杯ご用意致しますか?」
男は時計をチラッと確認し、「今日はお会計で。」ポッケに入れたカードを差し出す。
「いつもありがとうございます。またお願い致します。」
「またね!今度鮨でも食べ行こうよ!」
軽快に階段を登り、男が帰っていく。
「ふう。。。」
深いため息を漏らしながら、グラスと灰皿を洗う。
音楽を消し、照明を全て消して、階段を登る。看板の電気を消して、鍵を閉める。
隣の部屋に入り、すぐさま冷蔵庫を開ける。
冷やしておいた缶酎ハイをぐいっと一気に飲む。
ベットに座り込み、「ふう。。。」また、ため息。
雑に服を脱ぎ捨て、下着に。
スマホを見ながら寝転び、誰からも連絡が来ていない事を確認。
「都子はどんなセックスが好きなの?」
大工の男の言葉を思い出す。
「都子は犯されるの好きな。」
都合の良い時にだけ来るスエットの男の言葉を思い出す。
ゲームセンターで500円で取った、サメの抱き枕をぎゅっとし、スマホでお気に入りの動画を小さい音で見る。
雅子は学生の頃からAV鑑賞が大好きだ。
片手にスマホを持ったまま、下着の上から胸の先端を爪でなぞる。
「ふぅ。。。んっ。。」
ブラの下から手を入れ、先端を思いっきりつねる。
「んぁあっっ。。。。ふぅ。。。ん。。。」
パンツの中に手を入れる。割れ目から溢れ出る愛液でヌルヌルと指が滑る。
「ん。。。はぁ。はぁ。。。。っん」
割れ目の上、少し腫れてぷっくりとした突起を指で摩る。
「んぁあっ。。。。んん。。」
もっと激しく摩る。
「んぁっつ。。」
足がピクッとなり、腰が浮く。
「はぁ。。。は。。。ふぅ。。。」
スマホの画面を消し、そのまま眠りにつく。
雅子の日常。




