-三十日目・2
学校でも自宅でも。遊びでも喧嘩でも。
いつも策を考えるのは一路。実行するのは、ガタイのいい慈良。
そこらでは有名な双子。二人一緒だったら、向かうところ敵なしだった。
高校までは一緒だったが、大学はさすがに一緒とはいかず、一路は都会の一流大学に、慈良は二浪して地元の大学に進んだ。
会えばすぐに打ち解けるが、会わない時間の方が積み重なると、お互い一人に慣れていく。
就職も、一路は都会の一流企業の研究職に、慈良は地元の中小企業で、それぞれにうまく過ごしていた。
一路が仕事を辞めて地元に帰り、ベンチャー企業を立ち上げるまでは。
その日のことを、慈良はよく覚えている。
その頃つき合っていた彼女から、急に別れを告げられた。しかも、スマホの文字で。
大切にして、結婚も考えていた相手だったので、慈良はうろたえた。
急いで、夜中に彼女のアパートに押しかけたが、絶対に入れてくれなかった。
一晩中外で粘っていたが、朝日が昇ると、さすがに人目が気になる。
やっと諦め、すごすごと自分のアパートに帰って来た。
カギを開けると、そこに一路が待っていた。
「よう」
驚いたのなんの。
「お、お前、いつ帰って来たんだ?」
「さっき」
一路はさっと動くと、温かいココアを二杯作った。
「朝帰りか? 体が冷えたんじゃないのか? まあ、これでも飲んであったまれよ」
慈良が彼女と飲むつもりで買っておいたココアで、カップもおそろいのハート柄だったが、慈良はいたく感動した。
ぐすぐすと洟をすすりながら、彼女の不実を嘆くと、一路は「ひどい女だ」とかなんとかと慰めてくれた。
「女なんて、当てにならないよ。いつもお前のことを我が身のように気にかけてきたのは、俺だ。そうだろ?」
そうだ。小さいころから、かけがえのない半身のようにして生きてきた。
話しているうちにだんだん慈良は、彼女とつき合っていたことに後ろめたさを感じ始めていた。
そしてその日のうちに、慈良は一路の出来立てほやほやの会社の共同経営者になってしまった。