一日目・5
「それでは」と、真部社長は軽く咳払いをした。
真部社長は『権兵衛』の脇に立って、椅子に座ったアヤに対していた。
『権兵衛』は、リビングルームの一角に直立している。その足は、真部社長が敷いたブルーシートを踏んでいる。
こうして見ると、とても動くようには見えない。
真部社長よりはずっと背が高いし幅もあるが、巨人とはいえない。大きいフィギュアみたいだ。
「『権兵衛』の使用方法と、使用上の注意を述べます」
アヤは集中しようとしたが、真部社長と『権兵衛』が目に入ると、どうしても平静な気持ちでいられなくなってしまう。
「まず、この電気コードを、コンセントにつないでください」
「えっ? コード? コードレスじゃないの?」
アヤはほとんど叫んだ。
「充電はできますが、充電池にも容量がありますので。過充電にならないようにはなっています。
それに、このコードは、安全装置も兼ねています。つまりですね、コンセントから急に、強い力でプラグが引き抜かれますと、安全装置が働いて、『権兵衛』は動けなくなります。
ふだんは、ですから、コンセントを差し替えるときはゆっくりと、プラグを持って抜いてください」
「ふうん。動かなくなった後の、リセットは?」
「私が先ほど押したスイッチを押してください。頭頂部の、ここ、真ん中の丸いボタンです」
真部社長が頭を小突くと、『権兵衛』は深くうなだれて、火焔型土器の中を見せた。
アヤは、立ち上がって近づくと、その中をのぞきこんだ。
確かに、クリーム色の丸い小さなボタンがある。
「わかった。もういいわよ」
『権兵衛』は頭を上げた。
「あら、言っていることを理解できるの?」
「ええ。まあ、日常用の会話は大丈夫です。ああ、とりあえずコンセントにつなぎますよ」
真部社長は、アヤの返事も待たず、手近なコンセントにプラグを差し込んだ。