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五十年後・10

 アヤは、目の前の、頭に白髪が少し交じっている男をまじまじと見つめた。

 これは、アヤと一路との息子だ。

 アヤがお腹を痛めて産んで、同じ家の中で育てた、たった一人の息子だ。

 だが、我が子とは、こんなに冷たい目をして親を見るものだろうか。



「わたしを、恨んでいるの?」

「いいや。……むしろ、恨めたらいいのにと思うよ。……母さんには、わからないだろうな」

「なにが?」

「人間は、機械じゃないってことさ。母さんが切り捨ててきた無駄なことの中にこそ、大切なものが詰まっていたんだよ。

 つまり、何もせずに空や海や樹々を見ていたり、お金に換算できないものを作ってみたり、仕事じゃない時間を共有したり、馬鹿話で笑ったり、触れ合ったり一緒に歌ったり、そんなことで、人ってのは、ふかふかで豊かな土壌になっていくんだ。

 俺は、俺の家族と無駄なことをたくさん積み重ねてきて、幸せになったから、もういいけど。母さんは、かわいそうな人だよ」








 ナラヤマランドは、ガボットの放牧地のようなものだ。

 そこここに、ガボットたちが思い思いの恰好でくつろいでいる。

 なだらかな丘陵地には、さまざまなへんてこな形の建物が点在している。

 建物の入り口はドアやシャッターの類はついていない。

 いつでも出入り自由だ。



 各建物の中では、プロジェクターがいろいろな光景を映し出している。ジャングルだったり、デパートだったり、ステージ、岩山、城、田んぼや畑、都会の雑踏、昭和時代の庶民の家もある。

 その中で何かを想像すると、その通りのものが、実物そのままに目の前に現れ、動き出す。ガボットたちにとっては、それこそが現実なのだった。

 繰り返し繰り返し、家族との思い出を追体験する者もいる。

 何かに追われて逃げ惑う者もいる。

 重大発見を発表して、万雷の拍手を浴びる者。とにかく山登りを続ける者。故郷の家を探し回る者。ひたすら何かを壊し続ける者。


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