五十年後・7
そして、一路がガボットに入る日。
やっぱり一族が集まってお祝いをした。
子どもたちを下がらせて、大人だけになった、宴の果て。
運ばれてきたのは、懐かしい「権兵衛」だった。
一路の体格に合わせて手直しされた権兵衛を、アヤはじっと見つめていた。
一路と共にガボットに入ると言うべきだったかもしれない、と悩んでいたが、目の前に実物が置かれると、やはり約束しなくてよかったと内心ほっとしていた。
一路は、しゃがんで権兵衛を撫でた。
「アヤ、きみにファスナーを閉めてほしい」
アヤはうなずいた。
衝立に囲まれた中で、一路は服を脱いだ。
夫の体が、いかにも年寄りのように乾いて骨ばっていたのに、アヤはショックを受けた。
もうずっと、夫婦は手もつないでいなかった。
一路は最後に眼鏡を外して、脱いだ服の一番上に置くと、権兵衛の中に入って、アヤを見上げた。
「俺はきみの願いを、かなえられたかな?」
わたしは、この人に何を望んだっけ。
ああ。老後の安心、だった。
アヤの目から涙があふれた。
この人は、律儀に気にしてくれていたんだ。
「もう、十分すぎるくらいに。ありがとう、一路」
一路は満足げにうなずくと、「閉めて」と請うた。
頭部をかぶせる時、一路は「慈良」とつぶやいた。
アヤは、ファスナーをきっちりと閉めた。
そのころ、中身が入ったガボットはナラヤマランドに送られるようになっていた。
しかし一路は、その意志を尊重して、一路の研究室に運び込まれた。
そしてもう、屋敷に帰ってくることもなくなった。
アヤの生活から、一路が姿を消した。