五十年後・6
実際、MABEカムパニーは、虎三郎がトップになって、名実ともに経営の中心となっていた。
経営者として社会的にも高く評価されていて、いろいろな団体の役員に名を連ねているし、メディアにもよく登場しているようだ。
一路は会長に退いて、研究に専念していた。
会長専用の、何もかもがそろった研究室で、集大成となるような秘密の研究に没頭していた。
だがそれは表向きのことで、本当のところは、ピカピカの設備や実験機械や器具に囲まれて、うろうろと歩き回ったり、実験用具をさわってみたりしているだけだった。
次から次に新製品を生み出していた往時のひらめきも活力も、一路から既に失われていた。
年を取ったら、それは仕方が無いことだと、アヤは思う。
アヤといえば、虎三郎に実権を譲ったことに深く安堵して、旅行だの観劇だのショッピングだのと、やっと手にした自由時間を謳歌していた。
今までがんばって働いて、その結果お金に不自由しなくなったのだから、今までの埋め合わせをするのは当然のことだった。
だが、一路にとっては、研究以外に時間の使い道などないのだった。
アヤが外出に誘ってみても、「研究しないといけないから」としか返ってこない。
もっとすばらしいものを生み出したい。生み出せるはずだ。
「あなたはたくさんのすばらしいロボットを生み出したじゃない。もう、十分よ。こんなにもたくさんの仕事を成し遂げられるなんて、他の人にはできないわよ」
そうアヤが言っても、一路には納得がいかないのだった。
俺にはできる。なんとかしてみせる。
何百回も材料ややり方を工夫して、実験を繰り返し。
考えて。考えて、考えて。
苦闘の果てに、実現不可能と思われていたことを、とうとうやり遂げた。
あの充実感、万能感が、なぜすっかり枯渇してしまったのか。
それどころか、追求したいテーマさえ浮かんでこない。
ガボットに入りさえすれば。
一路は、もうそこに望みを託すしか無かった。
そうすれば、この、ぼんやりと自分を覆う霧は晴れるはずだ。