五十年後・3
資金が潤沢になってくると、一路は特殊なロボットの製作に注力し始めた。
中に人間が入れるようになっているのを見たアヤが、何のためのロボットなのかと尋ねると、一路は淡々と説明し始めた。
「これは、中の人間を守るためのロボットなんだ。
たとえば、戦争や自然災害が起こった時、この中に入っていれば、飲み水も食料もなくても生きられる。雨露をしのぐための建物や、体温を調節するための衣服や設備、トイレさえも必要ない。
固いものがぶつかっても、ケガをしない。爆弾や熱や放射線も、ある程度は防げるようになっている。
これは、極小のシェルターなんだよ。
俺が本当に作りたかったのは、このロボットなんだ。いや、ロボットというよりは、高機能な着ぐるみに近いけど」
そして、アヤを見ながら、恥ずかしそうに告白した。
「ほら、『権兵衛』。あれが最初の試作品だったんだ」
アヤは、権兵衛と言われて、もう忘れかけていた、あの妙なロボットをおぼろげに思い出した。
一路との出会いのきっかけになったロボット。
「え、じゃあ、あの中には、誰かが入っていたってこと? 誰?」
「慈良だ」
一路は事もなげに答える。
アヤは絶句した。
「ひどい……」
知らないでいた方がよかった。
何かいろいろと恥ずかしいところを見られたような気がする。
「おかげで、きみとこうして一緒になれた」
一路は、初々しく照れていた。
巷には、MABEカムパニー製のロボットがあふれた。
どれも、親しみやすい姿かたちをしていて、いつの間にかものすごい勢いで増えていても、だれも違和感を持たなかった。
むしろ、急激に減少している人口を支える労働力として、大いに期待されていた。
一路が小さいシェルターと言ったロボットは、「ガボット」という商品名で売り出された。
大まかでいいのだが、着用する人にサイズを合わせる必要があるので、注文を受けてからの製作ということにした。
どのくらい売れるものか未知数だったが、当初からタヤマ製作所だけでは間に合わないほどの注文が入った。
タヤマ製作所は思い切って設備投資をして、機械化できるところは機械を導入して、社員も増やした。
権兵衛を作ってくれたあの深山は、管理職になって、たくさんの部下を指揮するようになった。