五十年後・2
「めでたい日って?」
ひ孫の女の子の高い声。
「ナラヤマランドに行く日なんだよ」
近くの孫息子がそっと教えている。
「じゃあ、ひいおじいちゃんに会えるんだ!」
ひ孫の男の子の浮かれた声。
「そのとおり。仲のいい二人が、また一緒に暮らせるんだ。めでたいだろう?」
虎三郎は、アヤの前に屈んで、手を取った。アヤは手を引っ込めて、首を振った。
「母さん、あいさつは?」
アヤは仕方なく、座ったまま声を張り上げた。
「みんな、来てくれてありがとう。楽しんでくださいね」
自分の口から出たのが、いかにも年寄りらしい、弱々しいしゃがれ声だったことに、驚いた。
虎三郎がグラスを掲げた。
「アヤおばあちゃん、おめでとう! 乾杯!」
たくさんのグラスが上がり、乾杯の合唱が起こった。
アヤは、細くなった腕でグラスをちょっと持ち上げて、ちょっとだけ口をつけた。
一路とまた会えるって?
お祝い? だれに対しての?
一路と始めた生活は日々目まぐるしく、退屈するどころか、ゆっくり休んでいる暇もなかった。
結婚して、思いがけずすぐに子どもを授かった。
産休と育休を取っている間に、アヤは一路の仕事を手伝うようになった。
主に対外的なことや事務仕事だったが、それが周囲にひどく好評で、やめないでくれ、ずっと続けてくれと懇願された。
専務の慈良は、アヤたちが結婚するのを見届けると、どこへともなく姿をくらましていたので、いずれにしても代わりが必要ではあった。それで、アヤが後釜におさまった格好になった。
家事育児にはベビーシッターや家政婦を雇っていたが、開発に専念できるようになった一路は、シッターロボを作った。
初めてのシッターロボは、子どもを抱き上げて、歌いながら揺らすくらいの機能しかなかったが、揺らし方と歌い方をファジーにしたことで、赤ん坊の虎三郎はぐずらずに、よく寝た。
試しに売り出すと、大ヒットした。
虎三郎がおもちゃで遊べるようになると、いろんな形にメタモルフォーゼするおもちゃ。
移動して、何でも口に入れるようになると、虎三郎の行く先を予想して掃除するロボット。
ぶつかってけがをしないように、すかさず家具などに貼りつく軟体ロボット。
迷子にならないように絶えず位置を示し、危ない時は勝手に鳴り響く下着。
虎三郎の成長に合わせながら作ったものが、次々にヒットして、会社はどんどん大きくなった。