五十年後・1
アヤは、お気に入りの揺り椅子に深々と体を預けながら、目の前のにぎやかなだんらんを見守っていた。
ぜいたくな内装を施した大広間の入り口付近で、到着する客を出迎えているのは、アヤと一路の一人息子、虎三郎。ヒゲをたくわえた渋い壮年の男だ。
アヤの近くに若い人たちが集まっている。さっき到着して、アヤにあいさつに来た孫たちだ。そこに混じって談笑している中年の女性は、虎三郎の妻、あかね。
虎三郎とあかねは早くに結婚して、五人の子を設けた。女の子が三人、男の子が二人。みんな成人している。
孫の配偶者が二人。
そして、ひ孫もすでに三人いる。
この場には、その全員がそろいつつある。
アヤを入れて、十三人だ。
おとなたちは久しぶりの話に夢中だ。
まだ就学前のひ孫たちは、屋敷の中を走り回って大騒ぎしている。
それを見守っているのは、サル型のシッターロボットだ。
長い手足としっぽを上手に使って、遊び相手をしながら、危ない時はサポートしている。
あちこちで料理や飲み物を勧めているのは、お仕着せを着たずんぐりロボット。
厨房で調理しているのもロボット。屋敷の掃除や保守点検、警備などの管理をしているのもロボット。
アヤの世話をしているのもロボット。
今や超優良企業となった「MABEカムパニー」が社会に提供してきたロボットたちだ。
創業者の一路が自分で実際使用することを重視していたので、当然、この屋敷の中にも、社内にも、ロボットがたくさん働いている。その数は人間よりもずっと多い。
人間がするのは、人間がするに値するとみなされた、創造的な仕事だけ。
ここにいるのは、現在がっちりとMABEカムパニーを支えている、そしてこれから先も事業を継承していくであろう頭脳たちであった。
虎三郎が、パンパンと手を叩いて、みんなの注意を引いた。
「はい、そろそろ始めますよ」
ずんぐりロボットたちが、乾杯用の飲み物をサーブする。
グラスが行きわたり、辺りが静かになると、
「えー、まずは当主のわたしからご挨拶します。今日はうちのおばあちゃんのために、遠路はるばるお越しくださって、ありがとう」
「プライベートFОを寄越してくれたから、あっという間だったけどね」
孫の一人が、笑いながら茶化した。
「そういう時代になったが、こういう時は、昔からの決まり文句があるんだよ」
虎三郎は、まじめに答える。小さいころから、そういうところがかわいがられる子であった。
「……ええと、うちのおばあちゃんも、いよいよ明日、めでたい日を迎えることになりました」