一日目・4
『マジ魔人一号』は、大きくびくんと震えた。
それから、横たわったまま体をそろそろと伸ばして、仰向けになると、伸びをした。
『マジ魔人一号』の顔が明らかになった。
青い顔面に黄色く光る、ひしゃげた四辺形の釣り目、スリットの入った銀色の口元。
だが、ああその頭は、なんと、金属製の火焔型土器なのだった。
『マジ魔人一号』は、手で頭を押さえながら上半身を起こして、体育座りになると、うつむいて、そのまま固まってしまった。
「おい、おい、ほら、動け!」
真部社長が『マジ魔人一号』の肩を揺さぶったが、びくともしない。
アヤは、もう死ぬかと思った。笑い死にとは、死に方としては立派とは言えないだろうが、少なくとも幸せな気がする。
『マジ魔人一号』は、頭を重たげに左右に何度か傾けて、やっと立ち上がった。音は実際はしなかったが、ぐぎぎと音が聞こえてくるようだった。
コンクリートがひび割れるのではと心配したが、見かけよりは軽いらしい。だるそうなおじさんみたいにふらふら歩く姿がまた、アヤの笑いツボを刺激する。
真部社長は、『マジ魔人一号』の後ろで、破いた段ボール箱を素早くたたんだり、台車を折り曲げて壁際に寄せたりとかいがいしく働いていた。
人目につく前に、なんとかみんな部屋に入った。
「えー、『マジ魔人一号』の使い方や注意点を説明いたします」
「ちょっと待って。えーと、別の名前をつけよう。うん、それがいい」
アヤはそう提案した。
そうしないと、冷静になれない。
「では、高峰様が名前をつけてください」
「うーん、と」
自分が言ったのだから、しかたがない。アヤはいろいろと考えたが、適当なものを思いつかない。
沈黙が落ちた。
ふと、こんなことで悩むのが馬鹿馬鹿しくなってきて、アヤは吐き捨てるように言った。
「『権兵衛』」
「えっ?」
真部社長が不審げな目を向けた。
「『名無しの権兵衛』よ。別に、深い意味はないから」
偉そうに言った割には、微妙だったかもしれない。だが、もういい。