十四日目・1
アヤは、新居の中に山と積まれた段ボール箱を前に、途方に暮れていた。
「そんなの放っといて、とりあえず一休みしよう」
一路が声をかけてくる。
「そうしたいけど……明日着るものも、この中に入っているし」
「明日になれば、家政婦がやってくるから、任せたらいいさ。それに、俺はきみが着るものが無くても全然構わないよ」
そう言いながら伸ばしてくる手をぱしっとはねのける。
「あのねえ、コーヒーメーカーも、マグカップも、みんなこの中に入っているの! ……あああ、権兵衛がいてくれたらなあ」
「しかたないだろ。トラブルが起こったんだから」
「もう。開発者でしょ、いい加減なロボットを作らないでよ」
「はいはい。きみのためにがんばるから」
インターホンが鳴った。
「あ、家具が届いたみたい」
アヤは、一路の手を振りほどいた。
「どうぞ」
クローゼットの鏡で自分の姿をさっと確認して、玄関に出る。
荷物の中からアレコレを探し出して設定を済ませるまでは、なにかと面倒くさいが仕方ない。
あれからの日々、目が回るほどの忙しさだった。
そんなつもりはなかったのに、一路に先手先手を打たれて、考える間もなく引きずられていった。
初めての週末には、アヤの実家に一路を連れて行った。
一路は緊張しながらも、アヤさんと結婚させてくださいと両親に請うてくれた。
その時の父母の感激たるや。
今までの親不孝をこれで解消できたのなら、それでよかったのかもしれない。
親の許しを得てからは、毎日帰宅すると一路がいて、権兵衛の作った食事を一緒にとりながら、一路が当たりをつけてきた賃貸物件を、二人であーだこーだ言いながら絞っていった。
泊まればいいのに、きみも仕事があるからと、一路は決して泊まらなかった。
有給休暇を取って、一日内見に費やし、入居物件を決定。
見取り図を入手して、そのまま家具屋と電気屋に行った。
引っ越しシーズンではなかったので、引っ越し業者も運送業者もすぐに手配できた。
そこからは、仕事をしながら引っ越しの準備。
幸い権兵衛がいたので、帰宅するたびに中身の詰まった段ボール箱が増えていて、アヤはほとんど何もしなくて済んだ。
だが、引っ越しの前日、権兵衛は突然固まって動かなくなってしまった。
頭のボタンを押しても再起動しなかったので、一路に連絡したら、「故障だね、仕方ないけど、引っ越したら家政婦を頼むから不要になるし、引き取るよ」と回収してくれた。
そして、次の週末にはもう引っ越してきたのだった。