三日目・4
その手話で、二人は忙しく会話をしていた。
以下、読者のために漢字を混ぜて翻訳する。
本当に 彼女が 俺に 会いたいために 故障したことにしてくれって 言ったのか?
そう たのまれた
じゃあ、おまえを直した方がいいのか? 直さない方がいいのか?
いちおう 直してほしい 寝たままは けっこう つらい
本当に どこも悪いところは ないんだな?
ない ああ 彼女の 話をきいてあげたら 距離が 縮まるはず
彼女の話? 女性と話しなんて 難しい
かんたん あいづちを打って 同情するだけ 協力するから だいじょうぶ
高峰様、高峰様と呼ぶ声がしたので、アヤは立ち上がった。
もう、目的の動画は見終わって、他の動画を見ていたところだった。
ちょうどよかった。動画を見ていたら、あっという間に時間がたってしまうから。
「なに?」
「なんとかなりそうです」
「あら、早かったのね」
真部社長は、権兵衛の両手を取って、起こした。
権兵衛は、そのままぐぎぎと立ち上がった。
「よかった~、権兵衛! 心配したのよ」
すみませんでした
本当によかった。
明日から、また家事のことを考えずに済む。
思わず、アヤの口は軽くなった。
「社長! 権兵衛は本当に有能なのよ。家はピカピカだし、料理はできるし」
「ありがとうございます。権兵衛は、わが社の誇る、最新鋭のロボットです」
「故障さえしなかったら、ずっと使いたいくらい」
「ありがとうございます。がんばります」
ちょっと沈黙が降りた。
なに、この人。間が悪い。
修理が終わったし、普通はそろそろ、引き上げるものじゃない?
「あの、修理代はかかるの?」
それとなく帰れと促してみる。
「いえ、モニター用ですし、修理代などいただきません……ですがその、ご迷惑をおかけしましたし、今までの使い心地などうかがいたいので、これから夕食をごちそうさせていただけませんか?」
「えっ? 社長が、わたしに、ごちそう?」
「権兵衛は直ったばかりですし、急に食事の支度をさせると、またへそ……いえ、負担がかかりすぎるかもしれませんので、代わりに私が夕食を差し上げたいと思いまして。いえ、もちろん、お断りになってもかまいません」
アヤの背後では、権兵衛が忙しく手話を繰り出していた。