一日目・3
ドアに傷をつけたんじゃないだろうか。
鈍くさい。
ああもう、こんなやつ呼ぶんじゃなかった。時間の無駄だった。早く帰らせよう。
マンションの共用廊下であたふたと立ったり座ったりしている真部社長の向こうに、ひっくり返った古い台車と、横倒しになった箱からはみ出した、金属製の青い二本の足が見えた。
アヤは、ドアの傷のことも忘れて、そっちに近づいた。
「それがそのロボット?」
「はっ、はい! 『マジ魔人一号』です!」
「『マジ魔人一号』?」
突如アヤは、発作に襲われた。
こらえようとがんばったが、胸や腹のあたりから大きなうねりが押し寄せて、こらえきれず、アヤは吹き出した。
お腹をかかえて、ひーひー苦しそうに笑い転げているアヤを憮然と見やり、真部社長はロボットを箱ごと抱き起こそうと奮闘した。
真部社長の貧弱な肉体のあちこちの筋肉がささやかに盛り上がったが、ロボットはかなり重たいのだろう。びくともしない。
「ロボットに歩かせたらどうなの? 自分で起き上がることもできないの?」
やっとのことではあはあと息をついたアヤの指摘に、真部社長ははっとして、いきなり箱をびりびり破いた。
横倒しになったロボットの全身が現れた。
膝を抱えてうずくまった状態で横倒しになっているロボットは、ひざ下と肘から先が青く、首から胸までと腰の部分が黒く、残りは銀色だ。頭は複雑で凝った形をしている。耳からは黄色のとがったものが出ている。
まだ顔は見えない。しかし、どんな顔をしているかもうアヤには想像がついた。
以前、昔のアニメに凝っている、オタクの男に見せられた画像に酷似していた。
「これって、著作権的にどうなの……?」
「いえ、頭の形状を少し変えているので大丈夫です。それに、この形のままで量産するつもりはありませんから。これはあくまで、私の趣味の延長で」
「ふうん」
趣味、という言葉にちょっと引っかかったが、アヤは黙って見守った。
真部社長は、頭頂に隠されるようについている、丸いボタンを押した。