三日目・2
きれいな浴室でお湯を浴びると、俗塵という俗塵が洗い流され、自分の体が芯からきれいになる気がする。
埃を取り除かれて風量が増したドライヤーを使うと、髪の乾きが速い。
洗濯されたパジャマは気持ちがいいし、よく眠れそう。
「あいつ、カイよりも頼れるんじゃない?」
鏡に向かってつぶやく。
ほろ酔いでちょっと赤らんだ顔。隙だらけの、だらしなく緩み切った表情。
カイと出会ったのも、飲み会だった。隣のテーブルにいて、意気投合したのだ。
耳元で、色っぽいなあって囁かれて。
あの頃が、いちばん燃えた。
あとは、熾火を掻き立ててみるだけ。
恋愛なんて、一瞬のものだ。
「じゃあ、おやすみ」
アヤは、そこら辺に立っていた権兵衛に軽く声をかけると、きちんとベッドメーキングされた掛け布団を力任せに引っ張り出してから、ベッドに潜り込んだ。
次の瞬間には、もう軽いいびきをかきはじめていた。
権兵衛はベッドの方を見て、アヤが寝入ったのを見届けると、フローリングの床の上にゆっくりとあおむけになった。
「権兵衛、ご・ん・べ・え!」
今朝もアヤは寝過ごした。
慌てて起き上がってロボットを探すと、権兵衛は台所の床の上に寝転んでいた。
「何してるのよ、ごんべえ!」
怒りのあまり、アヤは権兵衛を素足で蹴飛ばしたが、次の瞬間、足を押さえてうめいた。
おはようございます
「寝坊したじゃない! なんで、おまえまで寝てるのよ!」
すみません こしょうしたみたい
「えええ? なんですって? たったの三日で? この、ポンコツロボット!」
しゃちょうに れんらく してください
「もう! そんな時間、ないわよ! あああ、遅れちゃう!」
アヤは超特急で支度をして、マンションを飛び出した。
余分に頭とお金を使って、何とか会社に着いた。
午前中はフロア中を駆け回り、目が回るほど働いた。
早めに昼休みをとって、近くの喫茶店でランチメニューが来るのを待っている間に、ロボットのことを思い出した。
面倒くさい。
だけど、家に帰って、まだあれが寝転がっているのを見たら、もっと嫌な気分になるだろう。
「なんでこんな余計なことをしないといけないのよ」
悪態をつきながら、真部社長にメールを入れた。