三日目・1
「高峰さんも、行きましょうよ~」
そう言われて同僚たちと飲みに行って、二次会まで。
アヤはいい気分になって、マンションに帰って来た。
指紋認証でドアを開けると、ぱっとセンサーライトがついたところに、大きな影が仁王立ちしていた。
「ひっっ!」
アヤは転びかけ、ドアで肩を打った。
「な、なによ、権兵衛じゃない! 驚かせないでよ!」
あやさま ごはん できています
「ごはんって……もういらないわよ。何時だと思ってるの?」
玄関の時計は、十二時過ぎ。
たいの につけ です
「なに言ってんのよ、こんな時に……」
待てよ。
そういえば、鯛の煮付けが食べたいと言ったかも。
ちょっと記憶がよみがえり、罪悪感が芽生えかけたが、
「だって、仕方ないじゃない。仕事だったんだから。コミュニケーションをとるのも、仕事のうちなの。悪いけど、もう食べられないから。もう、シャワーを浴びて寝ないと、明日に差し支えるし」
アヤは、権兵衛を押しのけて、寝室に入った。
「あれ? ここに置いておいたパジャマは?」
振り返って怒鳴ると、いつの間にか、すぐ後ろに権兵衛が来ていた。
アヤはびくっとした。
権兵衛は、胸のディスプレイを指している。
せんたくして たたんで まくらもとに おきました
アヤが枕もとを見ると、きれいにたたんだパジャマと下着があった。
「あ……あ、そう。ありがと」
パジャマを取り上げて浴室に向かう。
洗面所の電灯を点けると、いきなりまぶしくて、アヤは思わず目を覆った。
うっすらと目を開けて見ると、大きい鏡が、拭きあと一つ残さず、曇りなくアヤを映し出していた。
洗面ボウルも光り輝いている。棚の埃や髪の毛も無くなっている。雑多に置いていた化粧品のビンは新品のように輝き、ラベルをこちらに向けて行儀よく並んでいる。
浴室にも明かりをつけてのぞき込むと、光の反射率が明らかに違う。
たとえるならば、泥沼が清流になったくらいのビフォーアフター。