二日目・5
逃げ出してもいいか、と思ったことで、気が楽になった。
口から出まかせでも構うもんか。
慈良は、そこら辺にあった包装紙を大きく破り取った。
白い面の上に、転がっていたペンを載せてアヤの前に置いた。
「なんか、生意気ね」
アヤは、ため息をついて、嫌いな食べ物リストを書き始めた。
ようふう わふう ちゅうか どれがこのみですか?
「そうね、どれも好きだけど。まんべんなく食べたいっていうか。外食が多いから、おふくろの味っていうか、家庭料理が食べたいの。家庭の味に飢えてるのよ、わ・た・し・は」
アヤは手を止めて、得意げに語った。
はあ。なぜそこでいばるのか、全く理解できない。
自炊しようという発想は無いのか。
「明日の朝食は、炊き立てご飯と味噌汁と、温泉卵がいいな」
今の在庫で、それは無理だ。
ざいりょうが とどくまで がまんして ください
「何を偉そうに。ロボットのくせに」
ざいりょうが ないと つくれません
「あーあ、わかったわよ。能無し権兵衛くん」
いちいち、気に障ることばかり言う女だ。
慈良は、深呼吸し過ぎて過呼吸になりそうになった。
床から大きいゴミを取って、ポリ袋に入れていく。
ポリ袋だけはたくさん転がっているので、探さずに済む。
脱ぎ捨ててそのままのストッキングは埃まみれなので、ゴミとみなすことにする。
哀しいストッキングよ。色気なんかまったく感じない。
大きいゴミを取った後は、隅っこで埃をかぶった置物と化していたロボット掃除機を作動させる。
スタートボタンを押すとすぐ、ピーピー鳴り始めた。
ひっくり返してダストパックを空にして、フィルターやブラシを掃除してから作動させると、生き返って健気に掃除を始めた。
かそけきブラシで大仕事に立ち向かう、その姿に、じいんとする。
お前も、苦労していたんだなあ。
この先も苦労続きだろうけど、少なくともオレがいる間は助けてやるぞ。同じロボットのよしみだ。