-一日目・2
「お前も好きだっただろう?」
「それとこれとは違う」
「どう違うんだ?」
慈良は天を仰いだ。
こいつは本当は宇宙人じゃないか。もしくは、アンドロイドだ。
「もういい。風呂に入る」
身を翻そうとすると、一路ががしっと腕をつかんだ。
「よく聞け。麻酔が効くのはだいたい三十分。緊急の場合はここのボタンを押したら、気付け薬が注入されて、意識が戻るようになっている」
何なんだ、一体。
突然、今まで感じたことが無い怒りと哀しみが慈良を突き抜けた。
一路はいつものポーカーフェイスだ。
一路にとっては、自分の研究が一番大事。慈良がどう思っているかなんて、二の次どころか、どうでもいいことなのだろう。
慈良はこんなに、一路のことを心配して、尽くしているのに。
ふざけるな。
オレで遊ぶな。
オレは何だ。
タダで弄べる、都合のいいおもちゃか?
「もういいよ。お前がオレを人間扱いしていないことが、よおくわかった。もういやだ。オレはおりる」
「待てよ、慈良」
慈良は、つかまれた腕を思い切り振り払った。
もう、こんなヤツとは金輪際お別れだ。
そうだ。こいつにとっては、オレは人間以下、いや、人間未満なんだ。
ここを出て、どこかに行こう。
どこでもいい、ここ以外なら。
ドアに手をかけたその時、うなじがちくりとした。
「一路、オマエ…」
「悪く思うな。人類のためだ」
「絶交してやる…」
慈良の意識は薄れていく。
倒れ掛かった慈良を支えようと、一路が駆け寄って来るのが見えた。
そして何かを圧し潰した感触がした。
それが最後だった。