-一日目・1
マジ魔人と慈良が派遣される前日の夜。
「ちょっと来てくれ、慈良。これから、一番大切なことを教える」
一路が慈良に、声をかけてきた。
「ええ? 今から?」
明日からしばらく入浴も食事もできないのだ。風呂にゆっくり浸かって、風呂上りにとっておきのアイスでも食べようと思っていたところだった。
一路は、慈良をロボットの脇に連れて行った。
「いいか。今回は、家事ロボットとして行く」
「それはわかっている」
研究に没頭する一路の分まで家事をこなしているのは慈良だ。自慢じゃないが、一通りのことはできる。
むしろ、慈良がいない間、一路はまともに生活できるのだろうか。そっちの方がよほど不安だ。
そう言ったら、一路に笑い飛ばされたが。
「若い女性相手だから、向こうに不安がないように、対策を考えた」
「……まあ、そうだな」
こっちにその気がなくても、女というものは、騒ぎ立てたりするものだ。
「……で、麻酔針を仕込んでいる」
「えっ?」
慈良は、耳を疑った。……いや、聞き間違いだと思いたかった。
「冗談だろ?」
「いや。冗談じゃない。……あれだ、見た目は子どもの名探偵が使うやつに、ヒントを得て」
慈良は絶句した。
「オレは眠りの小五郎か? いやいや、麻酔針なんて物騒なもの、やめてくれよ」
「今回は、電気コードとリモコンをつけたんだ。電気コードのプラグが、コンセントから思い切り引き抜かれた時と、リモコンの『緊急停止』が押された時には、麻酔針がこう、ちくっと来るようになっている」
「ええっ、電気コード? リモコン? オレは聞いてないぞ」
「だから今、説明している」
「だいたい、なんで電気コードがついているんだよ。前は無かっただろ?」
「つけたかったからだ」
一路の目線がちらっと動いた先に、『新世紀エヴァンゲリオン』のコミックが積んであった。
「あああ……」
こいつは、見た目は大人で中身は子どもか。