-三十日目・11
それから慈良は、おとなしくロボットを脱いだ。
風呂に入って、久しぶりにまともな食事をし、ベッドにもぐり込んででこんこんと眠った。
自分に戻った気がしたのは、やっと三日後である。
まさか、その途端にあのロボットを着ろと言われるなんて、思いもしなかった。
「俺も不眠不休で、改良を加えたんだ。絶対、快適になっている。保証するよ」
一路は聞く耳もたない。
なんて哀れな慈良。
「なあ、一路。本当のところ、オレは、不快というよりは、怖いんだよ」
「何がだ?」
「あのロボットは、人間をダメにする。あれの中に入っていると、だんだん、なんかこう、何にも考えられなくなるんだ……食べなくても飲まなくてもいい。トイレに行く必要もない」
「まあ、俺の『循環システム』が優秀だからな」
「そこじゃない。何かをしようって気が、まるでなくなってくるんだ。自分が自分じゃなくなるんだよ」
一路は腕組みして考え始めた。
「それはちょっと……ちょっとおとなしくなるくらいはいいが、意欲が全くなくなるのはだめだな……意欲がなくなるのはなんでだと思う?」
やっと意見を聞いてくれそうなので、慈良は頭をひねって考えた。
「そうだなあ、外界の刺激がほとんど無くなるからかなあ。……そう、ちょうど、おふくろの腹の中にいる感じというか……守られて、安心している感じ」
「そうか、刺激か……」
一路は、ううんと唸って、何度もうなずいた。
「お前から教えてもらうこともあるんだなあ。……いや、ありがとう、慈良。お前もなかなか大したもんだ」
一路は何か思いついたらしい。晴れ晴れした顔になった。
慈良は嫌な予感がした。
「女だな! そうだ、女だ! いちばん刺激的なのは、異性に決まっているよな! うん、それも、頭の回転が速い、きれいな女がいちばんだ!」
「……いや、だからだなあ、」
どうしてそうなるのだろう。
「なんだ、慈良、お前は男の方がいいのか?」
「いや、オレは女の方がいい」
「そうだろ? 俺だってそうだ。お前の好みもわかっている。ようし、待ってろ。作戦を立てる」
慈良は、ぼうぜんとした。
とりあえず、しばらくは、あれを着こまずに済みそうではある。
しかし、余計にややこしいことになったような気がしないこともない。
慈良は身震いし、考えることを放棄した。




