-三十日目・10
「いい調子だな。ようし、このまま実験を続けよう」
え?
慈良はあわてて、ディスプレイに『どういうことだ』と表示した。
「どういうことって、まあ、一週間そのままで頼むってことだよ。心配いらない。排泄物はすっきりと吸収されるから、絶対に我慢するなよ。栄養もきちんと採れるようになっているから、餓死する心配もない」
『いやだ』
「頼む。これに成功したら、お前も俺も億万長者になれるんだ」
慈良は構わず脇のファスナーを下げようと手を伸ばしたが、どうあがいても触れない。一路がそんな基本的なところを見逃しているはずがなかった。
いつの間にかじりじりと後ずさっていた一路が、壁のボタンを押した。
二人の間の床から透明な壁が次々と飛び出した。
あっという間に慈良は、天井に届く透明な壁でできた部屋の中に囲われた。
「悪い、慈良。データをとるために必要なんだ。お兄ちゃんを助けると思って、我慢してくれ」
『ひどい だましたな うらむぞ いちろう』
「ああ、好きなだけ恨め」
ファスナーが開いて、頭が急激に軽くなった。それだけではない。ひどく頼りなく、すーすーする。
慈良は、思い切りくしゃみをした。
「目を閉じてろ。明かりは絞っているけど、まだまぶしいかもしれないから」
身ぐるみはがすな。寒い。やめてくれ。ほっといてくれ。
「よしよし、慈良。よおくがんばったな。風呂に入りたいだろう。ほら、脱がせてやるから、腕を開いて」
一路。一路だ。オレにいつも面倒を押しつけるやつ。
「……いてえな」
重い手応えと、痛そうなうめき声に、慈良ははっとした。
一路が壁にぶつかって頭を押さえている。
「……一路?」
「ああ、悪いのは俺だから、別にいいんだ。でも、頭は避けてくれ。俺にはこの頭しかないんだから」




