-三十日目・8
一か月後、それは、見事に出来上がった。
特に手指の関節の辺りなどに、慈良はうなった。
慈良よりも一回り大きいそれを、筋肉を盛り上げて持ち上げた途端、慈良は後ろにひっくり返りそうになった。見た目よりずいぶんと軽かったのだ。
社長と一緒に納品に立ち会った深山が、珍しく、声を上げて笑った。
注意しつつそっと研究室に運び入れたそれを検分して、一路は一言、「ふん。まあまあだな」と言った。
それが一路の最大の誉め言葉なのだった。
深山の仕事が認められて、慈良も嬉しくてたまらなかった。
タヤマ製作所では、「マジ魔人」と呼ばれていたらしいので、二人もそう呼ぶことにした。
マジ魔人の内部は空洞になっている。そこに、一路は連日何かを取り付けていた。
そして、ある日。
「おい、慈良。この中に入ってくれ」
一路がマジ魔人を指さしている。
マジ魔人と慈良を見比べては考え込む一路を見て、いつかはそう言われるのではないか、という嫌な予感がしていたところだった。
「入るって、入ったらどうなるんだ?」
「ちょっとサイズを確かめるだけだ」
寝かせて、頭部から股までの脇ファスナーを開いたそれの横に、慈良はしぶしぶ屈みこんだ。
「ちょっと待った。服を脱げ」
「えっ? ……脱がなきゃだめ? ……どこまで?」
「全部だ、全部。服の厚みは計算に入れていないから。どうせここには俺しかいないんだから、大丈夫だ」
小さいころから一緒の双子でも、羞恥心の育ち方は違うと思う。
しかし、一路の断固たる顔を見て、慈良はあきらめた。従った方が速く済む。
慈良は前を隠しながら、金属の細い空洞に、手足の先をそろそろと伸ばしていった。
いかにも固そうで、こっちの肉体に無理がかかるのではと恐れていたが、手足を入れると内側がひたっと吸い付くように柔らかくなって、驚いた。
慈良特注のウエットスーツみたいな着心地だ。
指先にまで、自分の指がすんなり入る。マジ魔人の関節と慈良の関節が、ぴたりとはまった。
「なんだ、これ?」
「いいから、頭もかぶれ」