-三十日目・6
止める間もなく、一路はにこやかに飲み干してみせた。
慈良の排泄物だったものを、一路が飲んだのだ。慈良が飲まないわけにはいかない。
まあ、一時尿を飲む健康法もあったくらいだ。朝一番のがいいとか。
死ぬことはあるまい。
慈良は、鼻をつまんだ。
「鼻はつまむな。結果がきちんと理解できないだろう。一気に飲むのもだめだ。ちびりちびり飲め」
一路が怖い顔をして注意してきた。
慈良は死んだような目つきで、口の中にフラスコの中身を注いだ。
ん?
普通の水だ。
むしろ、カルキ臭くなくておいしい、といえるかも、しれない。
次の一口で、さらにその感想を強くした。
「そら、わかったろ」
一路の勝ち誇った声。
「これは、どういうことなんだ?」
「この綿の中に、排泄物を分解する、あるバクテリアをたくさん含ませたんだ。そのバクテリアを通すことで、尿は速やかに水と二酸化炭素に分解される」
「へええ。それはすごいなあ。よくがんばったんだなあ、やったじゃないか、一路」
一路は鼻高々に、自分がいかに試行錯誤したか順を追って話し始めたが、こうなると話が終わらないことを慈良はよく知っている。
「悪い、オレ、ちょっと寝てくるわ。眠くて死にそうだから」
連日一路につき合って、既に慈良はへとへとだった。成果を上げて機嫌のいい一路に安心して、二階に行こうと立ち上がった。
「……おい、ちょっと待て。まだ話は終わっていない」
一路が急に低い声になった。でも、もう限界だ。
「勘弁してくれよ。オレは、お前みたいなスーパーマンじゃないんだよ」
「もう一つ実験が残っている」
慈良の背筋に、悪寒が走った。
「まさか……」
ふふふ、と一路は笑った。
少し睡眠をとることはなんとか許してもらえたが、その後、大きい方の排泄物で実験することからは逃れられなかった。